笠間焼とは?
笠間焼(かさまやき)は、茨城県笠間市を中心に作られる伝統的な陶磁器で、日本六古窯には含まれないものの、江戸時代からの長い歴史を誇り、近年は民藝運動や現代陶芸とも深く関わりながら発展してきました。とっくりや壺、茶器などの実用品から、オブジェやアートピースまで、幅広い作風をもつのが特徴です。
土の風合いを生かした温かみのある佇まいと、作家ごとの個性が際立つ作品群により、全国から陶芸ファンやプロの料理人の注目を集めています。
品目名 | 笠間焼(かさまやき) |
都道府県 | 茨城県 |
分類 | 陶磁器 |
指定年月日 | 1992(平成4)年10月8日 |
現伝統工芸士登録数(総登録数) ※2024年2月25日時点 | 22(25)名 |
その他の茨城県の伝統的工芸品 | 結城紬、真壁石燈籠(全3品目) |

笠間焼の産地
山と土と信仰が育んだ陶芸の里

笠間市は茨城県西部、栃木県と隣接する内陸の盆地に位置し、古くから良質な陶土が採れる土地として知られてきました。箱田や稲田といった地域には、粘土層が豊富に分布しており、陶器制作に適した土質をもつことが、窯業の発展を支えてきました。
また、笠間は常陸国一宮・笠間稲荷神社の門前町としても知られ、信仰とともに人の往来が多かったことで、文化・技術の交流が盛んでした。戦後は「笠間焼」としてのブランド価値が高まり、全国から陶芸家が集う土地として現在も活況を呈しています。
笠間焼の歴史
信楽から学び、現代陶芸の中心地へ
笠間焼の起源は、江戸時代中期に信楽から技術を導入したことにあります。そこから日用品の生産を軸に発展し、昭和期には民藝運動や現代陶芸の影響を受けながら、全国有数の作陶地として発展してきました。
- 18世紀後半(江戸時代中期):笠間市箱田村の久野半右衛門が、信楽(現・滋賀県甲賀市)から陶工を招き、登り窯を築いて陶器づくりを始めたのが起源とされます。
- 19世紀(幕末〜明治期):日用雑器の産地として発展。特に水がめや徳利、壺などを中心に生産され、農家の副業としての陶芸が根づきました。
- 20世紀前半(昭和初期):民藝運動の影響を受け、生活に根ざした美しい器づくりが注目を集めるようになります。
- 1960〜80年代(昭和後期):高度経済成長期以降、個人作家の工房が増加。芸術性の高い作品も多く生まれ、伝統と現代陶芸が共存する産地へと進化します。
- 1979年(昭和54年):笠間焼が経済産業省より「伝統的工芸品」に指定される。
- 現代:笠間陶炎祭(ひまつり)などのイベントも定着し、笠間焼は生活に溶け込む工芸として広く支持されています。
笠間焼の特徴
自由な発想を受け止める懐の深さ
笠間焼は特定の形や技法に縛られず、作家の個性が反映されやすい自由な作風が特徴です。登り窯や電気窯、ガス窯などさまざまな焼成法が用いられ、土味を活かした素朴な器から、釉薬を駆使した華やかな作品まで多彩です。
粘土には、地元で採れる笠間粘土が用いられます。鉄分を多く含み、焼成すると茶褐色に発色するという特性があり、この風合いが笠間焼特有のあたたかみや土らしさを生み出しています。丈夫で実用的なため、日常使いのうつわとしての需要も高く、食器や花器をはじめ、インテリア雑貨としても人気があります。

笠間焼の材料と道具
笠間の土と多様な焼成技法が生む個性豊かな器
笠間焼の魅力は、地元で採れる粘土の素朴な風合いと、それを最大限に引き出す多様な道具・技法にあります。陶芸家一人ひとりの感性がかたちになる背景には、原材料と設備の選択に自由度があり、それを活かすための技術と工夫が息づいています。素材の個性を読み取り、火と対話するように作り上げる工程には、職人たちの繊細な感覚と熟練の技が欠かせません。
笠間焼の主な材料類
- 笠間粘土:笠間周辺の丘陵地帯から採れる陶土。鉄分を含み、焼成後は茶褐色〜赤褐色に発色。粘性が高く成形しやすいのが特長。
- 釉薬(ゆうやく):透明釉、鉄釉、灰釉などが主に使われる。
- 化粧土:素地の表面に白い土を塗ることで、焼き上がりに独特のコントラストを生む。
笠間焼の主な工具類
- 電動ろくろ・蹴ろくろ:器の成形に欠かせない基本道具。作品の大きさや意図に応じて使い分けられる。
- カンナ・トクサ・ヘラ:成形後の削りや仕上げに用いる道具。面を整えたり、文様を施すなど多用途に使用される。
- 型(石膏型・木型など):手びねりでは出せない正確な形状を実現。反復的な量産にも適している。
- 釉掛け用具(ハケ・噴霧器・浸し用バケツなど):釉薬を均一にかけるための道具。器の形状や釉薬の性質に応じて使い分ける。
- 焼成設備(登り窯・電気窯・ガス窯):焼成温度や燃料、炎の性質の違いによって、作品の表情が変わる。笠間では複数の焼成方法が共存しているのが特徴。
これらの素材と道具は、作家ごとの美意識と感性を具体的なかたちにするための手段であり、笠間焼の多様性と自由さを支える要です。

笠間焼の製作工程
土づくりから焼成まで職人の手で
- 土づくり
笠間土をふるいにかけて不純物を除去し、水分を加えて練り上げる。 - 成形
ろくろ成形や手びねり、型押しなどで器の形を作る。 - 乾燥
形を整えた作品を自然乾燥または室内でゆっくり乾燥。 - 素焼き
低温(約800度)で一度焼成。 - 釉掛け
釉薬をかけて装飾性と耐久性を加える。 - 本焼き:窯で高温(約1200〜1300度)で焼成し、完成。
シンプルな工程の中にも、作家の工夫や素材への理解がにじむ、奥行きある作陶が魅力です。
笠間焼は、伝統を継承しながらも時代とともに進化を遂げてきた器の文化です。生活に寄り添いながら、個性ある美しさを放つその作品群は、まさに「使う芸術」として、私たちの日常に潤いを与えてくれます。
