【多摩織とは?】東京の“粋”を織り上げる、八王子生まれの高級絹織物を徹底解説|特徴・歴史・工程までわかる決定版

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多摩織とは?

出典:八王子市公式シティプロモーションサイト|https://www.city.hachioji.tokyo.jp/citypromotion/index.html

多摩織(たまおり)は、東京都八王子市を中心に生産される伝統的工芸品で、お召織・風通織・紬織・もじり織・変わり綴という五つの技法を総称した絹織物です。

江戸の町人文化や明治以降の近代化に適応しながら、粋で洗練されたデザインを反映し、現代でも普段使いからフォーマルまで幅広く愛されています。特に「ずらし絣(かすり)」と呼ばれる、高度な技法による幾何学模様の表現が特徴的で、幾何の規則性と職人の手仕事による“心地よいズレ”が共存した味わい深い織物です。

品目名多摩織(たまおり)
都道府県東京都
分類織物
指定年月日1980(昭和55)年3月3日
現伝統工芸士登録数(総登録数)
※2024年2月25日時点
7(17)名
その他の東京都の伝統的工芸品村山大島紬本場黄八丈江戸木目込人形東京染小紋東京手描友禅東京銀器江戸和竿江戸指物江戸からかみ江戸切子江戸節句人形江戸木版画江戸硝子江戸べっ甲東京アンチモ二ー工芸品東京無地染江戸押絵東京三味線東京琴江戸表具東京本染注染(全22品目)

多摩織産地

桑と絹の都・八王子

主要製造地域

東京都南西部に位置する八王子市は、古くから「桑の都」と呼ばれるほど養蚕と絹織物業が盛んな地域でした。明治時代以降、製糸業とともに発展した八王子織物の伝統が、現在の多摩織に引き継がれています。

中央線や甲州街道の発展とともに、地場産業としての織物業は商都・八王子の経済を支える柱となり、今もなお絹織物の一大産地として知られています。

多摩織の歴史

多様な技法を織り上げた八王子の工芸の歩み

多摩織の歴史は、八王子における養蚕と製糸の発展と深く関わっています。江戸から明治、大正、昭和を経て、現在に至るまで、時代の要請に応じた多様な織技法を育み、地域の気風と共に進化してきました。

  • 江戸時代後期:八王子は甲州街道沿いの宿場町として栄え、養蚕と織物業が地域産業の中心に。
  • 明治〜大正期:製糸工場の興隆とともに絹織物の技術が発展。関東有数の織物産地へと成長。
  • 昭和初期:洋装文化の浸透により、色柄にモダンな要素が加わり、「粋」な多摩織として定着。
  • 昭和後期:伝統的工芸品に指定。お召織・風通織・紬織・もじり織・変わり綴の5つの織技法を統合したブランドとして体系化。
  • 1980年(昭和55年):多摩織が経済産業大臣より「伝統的工芸品」に指定される。
  • 現代:反物だけでなく、ネクタイやストール、帽子など日用品・ファッションアイテムへの展開が進む。

多摩織の特徴

幾何の美と手仕事の“ゆらぎ”が織りなす粋

多摩織は、東京ならではの粋な色柄と、手織りによる柔らかな風合いをあわせ持つ織物です。中でも、幾何学的に設計された絣模様に、手仕事ならではの“ずれ”や“にじみ”が加わることで、機械織では再現できない味わいが生まれます。

「ずらし絣」はその象徴的な技法で、染色した千本以上の経糸をわずかにずらしながら織ることで、繊細で奥行きのある文様を表現します。日常着に向く控えめな色彩から、華やかなフォーマル用まで、用途に応じた織分けも職人の技術の高さを物語っています。

また、ひと織りごとに織機を両手両足で操ることで、微細な調整が可能になり、均整の中にも自然な“ゆらぎ”が感じられるのも多摩織ならではの魅力です。

多摩織材料と道具

絹の光沢と職人技を支える素材たち

多摩織の製作には、高品質な絹糸とともに、織りの種類ごとに異なる道具が用いられます。手織りの工程では、微細な操作を支えるための機構が重要な役割を果たします。

多摩織主な材料類

  • 生糸(絹糸):養蚕で得られる高品質な天然繊維。
  • 草木染め染料:自然由来の色合いを出すために使用。

多摩織主な道具類

  • 高機(たかばた):職人が両手両足で操作する手織り機。
  • 杼(ひ):横糸を通すための道具。
  • 綛上げ機:糸を巻く工程に用いられる。

厳選された自然素材と、精密な機械装置を駆使することで、多摩織独特のしなやかな布地が生まれます。

多摩織の製作工程

手仕事で織り上げる、多彩な技法の結晶

多摩織は、次のような工程を経て丁寧に織り上げられます。

  1. 糸づくり
    生糸を精練し、目的に応じた太さや撚りをかける。
  2. 染色
    絣柄などの模様に合わせて、糸を草木や化学染料で染め分ける。
  3. 整経(せいけい)
    経糸を織機にセットするために並べ、テンションを調整。
  4. 製織
    職人が手織り機を使って、慎重に織り進める。
  5. 仕上げ
    蒸しや水洗いによって糸の収縮を整え、布地としての安定性を高める。

複雑な工程をすべて手作業で行うため、反物1本の完成には長い時間と高い技術力が求められます。

多摩織は、東京の“粋”と職人の手仕事が生んだ美しい絹織物です。江戸から続く織物文化を受け継ぎつつ、現代の生活や感性にも寄り添う普遍的な魅力を備えています。高度な技術と時間を要するため生産量は限られますが、反物だけでなくネクタイやストールなど、日常に取り入れやすいアイテムも登場し、手織りの風合いをより多くの人に届ける試みも進んでいます。

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