勝山竹細工とは?
勝山竹細工(かつやまたけざいく)は、岡山県真庭市勝山地区で受け継がれてきた伝統的な竹工品です。江戸時代後期に始まり、マダケの青い表皮と内側の白い部分を活かして編まれるかご類は、「そうけ」や「飯ぞうけ」と呼ばれ、長く日用品として親しまれてきました。
その魅力は、素朴ながらも洗練された編み目模様と、使い込むほどに青竹があめ色へと変化し、自然なツヤが増していく経年美にあります。通気性・耐久性にも優れ、米・野菜・雑貨などを包み込む、暮らしの中の美しい道具として、今なお丁寧な手仕事で作られ続けています。
品目名 | 勝山竹細工(かつやまたけざいく) |
都道府県 | 岡山県 |
分類 | 木工品・竹工品 |
指定年月日 | 1979(昭和54)年8月3日 |
現伝統工芸士登録数(総登録数) ※2024年2月25日時点 | 0(4)名 |
その他の岡山県の伝統的工芸品 | 備前焼(全2品目) |

勝山竹細工の産地
歴史の往来と自然の恵みに育まれた、竹細工の里

主要製造地域
勝山竹細工のふるさとである岡山県真庭市勝山は、江戸時代に出雲街道の宿場町として繁栄しました。出雲・備中を結ぶこの街道は、参勤交代や物資流通の主要ルートであり、勝山には本陣や土蔵群が立ち並び、往来する人々と文化を受け入れる開かれた町として栄えました。
文化的にも、勝山は城下町としての格式を備え、地域に根づいた生活道具の美しさが重んじられてきました。竹細工は単なる日用品ではなく、「丁寧に暮らす知恵」として、各家庭において大切に使われてきたのです。
また、勝山周辺の気候は冬に冷え込み、夏は蒸し暑い内陸性気候。通気性と乾燥性に優れた竹細工は、そうした環境の中で食材の保存や道具の保管に最適でした。
さらに、中国山地に抱かれた地理環境が、質のよいマダケの生育を支えてきました。斜面に自生する竹林は通気と水はけがよく、強度と弾力性を兼ね備えた竹材が得られる条件が揃っています。こうした風土の中で、勝山竹細工は自然との共生から生まれた暮らしの美として受け継がれてきたのです。
勝山竹細工の歴史
宿場町に根づいた生活道具として広まり、伝統工芸へ
勝山竹細工の歩みは、日々の暮らしとともに静かに積み重ねられてきました。その変遷は、生活様式や流通の変化と密接に結びついています。
- 1800年代中頃(江戸後期):勝山で「張そうけ」と呼ばれる竹かごの製作が始まる。日用品として地元農家で利用される。
- 1830〜1850年代:職人を1年単位で家に住まわせ、年間分のかごを作ってもらう家庭も増加。地域生産が拡大。
- 1868年(明治元年)以降:明治維新により街道の人流はやや減少するが、竹細工は農家の副業・行商品として存続。
- 1890年代(明治後期):行商が盛んになり、勝山竹細工が中国地方各地へ流通。用途に応じた形の多様化が始まる。
- 1930〜1950年代(昭和中期):戦後復興期に家庭用品としての需要が高まる。飯ぞうけ・米あげなどが重宝される。
- 1970年代:プラスチック製品の普及により一時需要が減少。生活の洋風化とともに衰退傾向へ。
- 1979年(昭和54年):勝山竹細工が経済産業大臣より「伝統的工芸品」に指定される。
- 現代:パンかご・花かご・インテリアとして再評価が進む。観光資源や教育体験としての注目も高まる。
生活の変遷に合わせて用途や形は変わりながらも、勝山の暮らしとともに受け継がれてきた手仕事の文化が、今も息づいています。
勝山竹細工の特徴
青と白が織りなす、使うほどに育つ手編みの美
勝山竹細工の最大の特徴は、マダケの青皮と白い内側を交互に編み上げる「色のコントラスト」です。素朴で規則的な編み模様が生み出す陰影は、見た目にも美しく、道具でありながら工芸品としての品格を備えています。
「飯ぞうけ」は、ご飯の粗熱を取って保存するためのかごで、夏場でも風通しのよい場所に吊るしておけば傷みにくく、炊き立ての風味が長持ちすると評判でした。これは、通気性と調湿性を備えた天然竹の特性が存分に活かされた用法です。
また、ひごの幅を揃える「はば決め」という技法は、職人が一度に4本のひごを均等に削る勝山独自のもの。これにより、均整の取れた編み模様が生まれ、見た目の美しさと構造の堅牢さが両立します。

勝山竹細工の材料と道具
竹の個性を読み解く、細やかな目と熟練の手が生み出す道具美
勝山竹細工の製作には、地元で育ったマダケを用い、季節や年数を見極めて伐採・乾燥させた後、各工程に応じた専用道具で精緻な加工が行われます。素材の力を最大限に引き出すため、昔ながらの技法と感覚が今も息づいています。
勝山竹細工の主な材料類
- マダケ:3〜5年ものの青竹。青皮と白身のコントラストが美しい。
- ツヅラフジ:ふち止めに用いる天然のつる素材。柔軟性と強度を併せ持つ。
勝山竹細工の主な道具類
- なた:竹を縦に割る際に用いる基本工具。
- 包丁:竹ひごを薄く均等に仕上げるための専用刃物。
- のこぎり:竹の切断に使用。用途に応じた歯の細かさがある。
- 幅決め具:勝山竹細工独自。一度に複数本のひごを同じ幅に整える道具。
選定・加工・編組のすべてが人の目と手に委ねられており、道具は代々職人によって受け継がれ、竹の声に耳を澄ませるための手段として磨かれてきました。
勝山竹細工の製作工程
竹の命を編み込む、五つの工程と四季の時間
勝山竹細工の製作は、自然のリズムと調和しながら、一年を通じて計画的に行われます。とくに竹の伐採は冬場に限定され、時間をかけた乾燥と準備ののち、丁寧にひごが作られ、かごへと姿を変えていきます。
- 竹洗い
選んだマダケをたわしで洗浄し、汚れを落とす。 - 竹割り
なたで縦割りし、さらに細く裂いてひごにする。 - 幅決め
一度に4本のひごを揃える勝山独自の技で、仕上がりの均一性を高める。 - 編み組
わくを組み、色違いのひごを交互に組み上げてゆく。 - 仕上げ
ツヅラフジのつるで縁を止め、強度と美観を整える。
こうして生まれた勝山竹細工は、自然素材のもつやさしさと力強さを併せ持ち、生活に静かな美を添える存在として愛され続けています。
勝山竹細工は、竹の持つ自然な美しさと生活の知恵が融合した、実用と芸術が調和する工芸品です。マダケの色彩や手編みの風合い、四季を活かした製作工程に宿る職人の技は、現代の暮らしにも優しく寄り添います。世代を超えて使い継がれる、その素朴な魅力に触れてみてください。
