【京扇子とは?】雅と実用が織りなす、日本の美を扇ぐ工芸品の真髄を徹底解説|特徴・歴史・工程までわかる決定版

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京扇子とは?

京扇子(きょうせんす)は、京都市や宇治市などを中心に製作されている伝統的な扇子工芸です。およそ1200年前、平安時代初期に生まれた「桧扇(ひおうぎ)」を起源とし、時代の流れとともに竹と和紙を組み合わせた「紙扇」や、絹を貼った「絹扇」など、多様な発展を遂げてきました。 

その特徴は、繊細な絵付けや金箔・銀箔などをほどこした華やかな意匠と、折り幅の狭い扇面によって生まれる、しなやかで柔らかな風にあります。能や茶道、日本舞踊などの芸事においても重要な役割を果たしており、用途や儀礼に応じて多彩な種類が作られてきました。

現代では、伝統とモダンを融合させた新たなデザインも登場し、扇ぐ道具としてだけでなく、持つ人の美意識を映すアートピースとしても注目を集めています。

品目名京扇子(きょうせんす)
都道府県京都府
分類その他の工芸品
指定年月日1977(昭和52)年10月14日
現伝統工芸士登録数(総登録数)
※2024年2月25日時点
18(63)名
その他の京都府の伝統的工芸品西陣織、京漆器、京友禅、京黒紋付染、京指物、京繍、京くみひも、京仏具、京小紋、京鹿の子絞、京仏壇、京石工芸品、京人形、京焼・清水焼、京うちわ、京表具(全17品目)

京扇子の産地

都の美意識に育まれた、扇の文化


主要製造地域

京扇子の主な産地は、古都・京都市とその周辺地域です。平安京が置かれて以来、京都は千年以上にわたり日本の政治・文化の中心であり続け、扇子もまたその中で「雅」の象徴として発展してきました。平安貴族の生活様式の中で桧扇が用いられ、扇は単なる涼をとる道具にとどまらず、情報を記す文房具や身分を示す道具として機能していました。その後、茶道や能といった芸道文化が京都で成熟すると、それに伴い芸事用の扇子も独自に洗練されていきます。

また、西陣織や京友禅などと同様に、細部にまでこだわる美意識が扇面の装飾にも反映されました。寺社の多い京都では、儀式・祝祭で使用される扇子も多く製作され、意匠・用途ともに極めて多様な扇子文化が育まれました。

京扇子の歴史

平安の宮廷から、世界へ羽ばたいた風の芸術

京扇子の歴史は、約1200年前の平安時代に遡ります。貴族社会から庶民文化、さらには海外まで広がった扇子の歩みは、日本文化の一端を象徴しています。

  • 9世紀前半(平安初期):木簡を束ねた「桧扇」が誕生。貴族の儀礼や筆記用具として使用される。
  • 11世紀(平安後期):装飾性が高まり、儀式や贈答の場でも使われるようになる。 
  • 13世紀初頭:竹と紙を使った「紙扇」が登場。軽量化と装飾性を兼ね備えた扇子として普及。 
  • 14世紀前半(室町初期):能楽の道具としての使用が始まり、「能扇」が登場。 
  • 15世紀後半:茶道文化の広がりに伴い、「茶席扇」が登場。用途に応じた扇子の分化が進む。 
  • 16世紀後半:町人文化の中で庶民にも扇子が普及。日常生活や儀式での使用が一般化。 
  • 17世紀(江戸前期):京都の職人による分業制が確立。扇子産業の生産体制が整う。 
  • 18世紀後半:木版技術の進歩により、量産型の装飾扇子が広まる。 
  • 19世紀前半(幕末):ヨーロッパで独自に進化した扇文化が逆輸入され、日本で「絹扇」が誕生。 
  • 1977年(昭和52年):京扇子が経済産業大臣により「伝統的工芸品」に指定される。
  • 現代:伝統技術と現代デザインが融合。ファッションやアート分野での活用が進み、国際的な評価を得る。

京扇子の特徴

折り幅の妙と風の感触、手の中に宿る雅

京扇子の魅力は、その美しさだけでなく、機能性と感性の両立にあります。最大の特徴は、骨数が多く折幅が狭いため、開閉の動作がとても滑らかで、あおいだときの風がやわらかく心地よい点です。これは「風を包むような扇」とも称され、他産地の扇子との大きな違いとなっています。

扇面には手描きの花鳥風月、季節の風物詩、歌や物語の一節などが描かれ、金箔・銀箔・蒔絵が使われることもあります。例えば、夏の京扇子には桔梗や朝顔など涼を感じさせる図案が好まれ、舞扇には大胆な色彩や吉祥文様が使われます。

加えて、現代では伝統の枠を超えた新たな試みも見られます。若手職人やデザイナーがファッションブランドと協業し、アート性の高い扇子や海外向けのプロダクトを開発するなど、扇子が再び注目を集めています。「使って涼む」だけでなく、「見て飾る」「贈って語る」工芸品として、京扇子は時代を超えて進化を続けています。

京扇子の材料と道具

自然素材と繊細な感性が織りなす、扇子づくりの礎

京扇子には、自然由来の材料がふんだんに用いられ、職人の目と手によって緻密に加工されています。

京扇子の主な材料類

  • 竹(若竹):柔軟性と強度を備え、細やかな加工が可能。
  • 和紙(皮紙・芯紙):折り目がつきやすく、加飾に適している。
  • :高級品に使われる、光沢と強度を兼ねた素材。
  • 金箔・銀箔・砂子:装飾用。

京扇子の主な道具類

  • 骨切り包丁:竹材を一定の幅に割るための道具。
  • 型紙:扇面を切り抜くための型。
  • 折型:扇面に折り目をつけるための型板。
  • 絵筆・刷毛:絵付けや装飾に使用。
  • 水糊:紙と骨を接着するための天然接着剤。

こうした素材と道具を駆使し、工程ごとに専門職人が連携して京扇子を仕上げます。

京扇子の製作工程

職人の手が織りなす、八十を超える工程

京扇子の製作は、分業制のもと約80以上の細かな工程を経て、一ヶ月ほどかけて丁寧に仕上げられます。

  1. 骨づくり:若竹を割り、整形・穴開け・研磨を施して扇骨を作る。両端の親骨には蒔絵や塗りを施すこともある。
  2. 地紙加工:芯紙を中心に、皮紙を左右に貼り合わせて乾燥後、型抜きして扇面を作る。
  3. 加飾(絵付け):手描き・金銀箔・木版刷りなどで装飾する。
  4. 折り加工:折型を使って蛇腹状に折る。
  5. 仕上げ加工:扇面に隙間を開け、骨を一本ずつ差し込んで糊付けし、親骨と貼り合わせて完成。

千年の都・京都で育まれた京扇子は、優雅な意匠と繊細な技術が息づく、日本文化の象徴とも言える存在です。芸術性と実用性を兼ね備え、今もなお伝統と革新のはざまで美しく進化を続けています。

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