【小千谷紬とは?】小千谷縮の技術を継ぐ、素朴で味わい深い絹織物の魅力を徹底解説|特徴・歴史・工程までわかる決定版

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小千谷紬とは?

小千谷紬(おぢやつむぎ)は、新潟県小千谷市や長岡市を主産地とする絹の紬織物です。かつて麻織物として知られた「小千谷縮」の技術をもとに、江戸時代中期から本格的に織られるようになったといわれています。

原料には玉糸や真綿から手紡ぎした紬糸が使われ、絹ならではの上品な光沢とふんわりとした温かみを持つ地風が特徴です。とくに、手摺り込みによって緯糸(よこいと)に多彩な絣模様を表現する「緯総絣(よこそうがすり)」の技法が見どころで、素朴ながらも奥深い美しさが広く愛されています。

品目名小千谷紬(おぢやつむぎ)
都道府県新潟県
分類織物
指定年月日1975(昭和50)年9月4日
現伝統工芸士登録数(総登録数)
※2024年2月25日時点
4(29)名
その他の新潟県の伝統的工芸品羽越しな布、塩沢紬、小千谷縮、本塩沢、十日町絣、十日町明石ちぢみ、佐渡無名異焼、村上木彫堆朱、新潟漆器、加茂桐簞笥、越後与板打刃物、越後三条打刃物、燕鎚起銅器、新潟・白根仏壇、長岡仏壇、三条仏壇(全17品目)

小千谷紬の産地

麻から絹へ、雪国の風土とともに歩む小千谷の織物文化


主要製造地域

小千谷紬の産地である新潟県小千谷市・長岡市周辺は、かつて「越後縮」や「小千谷縮」といった麻織物の一大産地でした。縄文時代の遺跡からも布目の土器が出土し、織物づくりの長い歴史がうかがえます。

この地域は冬になると3メートルを超える積雪に見舞われますが、その気候が織物づくりには最適でした。雪解け水の清らかさと湿潤な空気は染色や糸づくりに好都合であり、農閑期には女性たちが家内で機を織る文化が根づきました。

江戸時代に麻の縮織から派生して絹織物として発展した小千谷紬は、雪国の暮らしと美意識のなかで育まれた織物です。現在もその風土に根ざした職人の手仕事が受け継がれ、温かみのある紬地が作られています。

小千谷紬の歴史

小千谷縮からの技術継承と、絹の紬への進化

小千谷紬の歩みは、雪国に息づく麻織文化と、江戸期の技術革新によって形づくられました。

  • 〜前1000年頃(縄文時代):布目のついた土器が小千谷地域の遺跡から出土。
  • 8世紀(奈良時代):越後の麻布が朝廷に上納された記録が残る。
  • 9〜13世紀(平安〜鎌倉時代):貴族や武家への贈答品・日常衣料として定着。
  • 14〜16世紀(室町時代):農村部で麻布づくりが副業として拡大。
  • 17世紀前半(江戸時代初期):播磨国明石藩の武士・堀次郎将俊が、強撚糸と湯もみを活用した縮織技法を小千谷に伝える。
  • 18世紀(江戸時代中期):小千谷縮の技術を活かして、絹の紬織物として「小千谷紬」が誕生。
  • 明治時代:鉄道や流通の発展とともに全国で親しまれるようになる。
  • 1975年(昭和50年):小千谷紬が経済産業大臣により「伝統的工芸品」に指定される。

小千谷紬の特徴

絣のやわらかさと手仕事の温もりがにじむ、日常に映える絹の紬

小千谷紬の最大の魅力は、ふっくらとした真綿糸による温かみのある地風と、緯糸に施された手摺り込みの絣模様にあります。とくに「緯総絣(よこそうがすり)」の技法では、緯糸全体に型紙を使って文様を丁寧に摺り込み、織り上げることで、図柄が柔らかく揺らぎ、手仕事ならではのぬくもりが表れます。

絣模様は、縞、格子、幾何文様、草花文、古典柄など幅広く、素朴ながらも豊かな表情をもち、見る人・着る人の心を和ませてくれます。藍や栗、ヤマモモなど自然由来の染料による色調は、落ち着いたベージュ系、やわらかな藍染色、渋みのあるこげ茶などが中心で、長く着続けられる普遍的な魅力があります。

また、小千谷縮と違って小千谷紬は絹織物であり、「しぼ」はなく、やわらかくしっとりとした質感が特徴です。麻縮のカラリとした手触りとは明確に異なり、秋冬にも心地よく使えるのが特徴で、触れた瞬間に“やさしさ”が伝わる織物だと言えます。

小千谷紬の材料と道具

真綿と絹の風合いを活かす、雪国の織道具

小千谷紬の製作には、自然の恵みである繭から採れる絹と、それを生かす伝統的な道具が欠かせません。小千谷縮から受け継がれた織機や技法が、紬糸に新たな命を吹き込みます。

小千谷紬の主な材料類

  • 真綿:蚕の繭を広げて作る素材で、柔らかく保温性がある。
  • 玉糸:未精練の絹糸で自然な節があり、風合いに変化を与える。
  • 草木染原料:藍や栗、ヤマモモなどが使われ、落ち着いた色合いに。

小千谷紬の主な道具類

  • 地機(じばた):職人の体重で操作する伝統的な手織り機。
  • 摺り込み用型紙:絣模様を緯糸に手で写し取るための道具。
  • 筬(おさ):織物の密度を整える織機部品。
  • 綜絖(そうこう):経糸を上下に分けて織りを可能にする装置。

これらの素材と道具が、雪国の風土とともに、味わい深い小千谷紬を支えています。

小千谷紬の製作工程

手摺りと織りが生む、絣と温もりの共演

小千谷紬の製作には、熟練の職人が工程ごとに心を込めて作業を進めていきます。ひとつひとつの工程が、絣模様と柔らかな地風を生む鍵となります。

  1. 真綿づくり
    繭を蒸し、乾燥させた後に手で広げて真綿にする。
  2. 糸紡ぎ
    真綿を手で撚りながら糸に紡ぎ、自然な風合いを生かした紬糸に仕上げる。
  3. 染色(草木染)
    栗や藍などの植物染料を使い、風合いを保ったまま糸を染め上げる。
  4. 絣模様の摺り込み
    型紙に沿って緯糸に模様を手で写し取る「手摺り込み」の工程。
  5. 整経・織機仕掛け
    経糸・緯糸を整えて地機に仕掛ける。
  6. 手織り
    一反一反を丁寧に織り上げ、絣模様と紬の地風を形にしていく。

このようにして織り上げられた小千谷紬は、雪国の風土と職人の技が織り成す、温もりに満ちた織物として完成します。

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