日本の伝統的工芸品「陶磁器」を深堀り!焼きものの歴史と陶器・磁器の違いを学ぼう

この記事では、経済産業省指定の伝統的工芸品の中から【陶磁器】にスポットライトを当てて、日本の陶磁器のこれまでの歩みを見ていきます。陶磁器をより楽しむために、まずは「焼きもの」のお話から。ぜひ最後まで読んで、自分好みの陶磁器を探してみてください!

この記事の目次

焼きものって何?

焼きものとは「火を使って土を焼いたもの」を指します。ただ土を焼くだけで「焼きもの」になるのではなく、粘土と呼ばれる一般的な土と比較して粘りのある土をこねて、形を整えて焼いたものが「焼きもの」と呼ばれます。そんな「焼きもの」にも種類があり、使う原料や焼く時の温度、吸水率や釉薬(ゆうやく/うわぐすり)の有無などの違いによって主に次の4種類に分類されます。

カエルくん

釉薬(ゆうやく)は別名(うわぐすり)とも呼ばれる、灰などを水に溶かしたものだよ!

1.土器(どき)

土器

原料は粘土で約800度で釉薬をかけずに素焼きします。水を吸いやすく、他の「焼きもの」と比較すると壊れやすいです。

カエルくん

今は植木鉢などに使われているよ!

2.陶器(とうき)

萩焼 写真提供:萩市観光協会

陶土と呼ばれる土が原料で、約1,100〜1,200度で釉薬をかけて焼きます。少し水を吸う性質があります。

カエルくん

萩焼や美濃焼などが陶器に該当するよ!

3.せっ器

越前焼 写真提供:福井県観光連盟

陶土と呼ばれる土が原料で、約1,200〜1,300度で釉薬をかけずに焼いた陶器のことです。陶器と一括りにされる場合もあります。

カエルくん

越前焼や信楽焼がせっ器に該当するよ!

4.磁器(じき)

九谷焼 写真提供:石川県観光連盟

陶石と呼ばれる石が原料で、約1,300〜1,400度の高温で釉薬をかけて焼きます。水を通さず、「焼きもの」の中で一番硬く仕上がります。

カエルくん

九谷焼や波佐見焼が磁器に該当するよ!

4種類が同時期に誕生したのではなく、技術の発展や中国や朝鮮半島からの影響などを受けながら「焼きもの」の形が変化していきました。その中でも日本人独特の美意識によって確立したものや、有名な歴史上の人物の影響で浸透したものなど、それぞれの「焼きもの」の誕生には理由があるのです。知れば知るほど面白い!
次の章では土器の誕生から磁器に至るまでの歴史を見ていきましょう!

焼きものの歴史を知ろう

土器の誕生には諸説あります。青森県蟹田町では1万6500年前のものとされる土器片が発見されており、世界最古の土器と言われています。縄文時代は1万2000〜1万3000年前から始まったと考えられているため、日本ではその前から土器が使われていたのでは。と考えられています。

カエルくん

イランでは1万年前、シベリアの遺跡からは1~1万2000年前、中国の長江中流域からは1万4000年前の土器が発掘されているんだ!

「ろくろ」と「窯」の伝来

縄文土器弥生土器も低い温度で焼いていたので、壊れやすい「焼きもの」でした。それが5世紀初頭になると朝鮮半島から「ろくろ」と「窯(かま)」が日本に伝わりました。「ろくろ」のおかげで左右均等でこれまでより薄いものが作れるようになり、「窯」のおかげでより高温で焼くことが可能になり、これまでの土器と比べて丈夫なものを作ることができるようになりました。

ろくろを使用している様子


高温で焼けるようになったことで、自然にかかった灰などが「焼きもの」の表面で溶けて金属やガラス質の光沢がつく自然釉が発見されました。次第に意図的に釉薬をかけて焼くようになり、日本の「焼きもの」は土器の時代から陶器の時代へと移っていきます。

日本人独特の美意識が生んだ陶磁器の流行

5世紀初頭に朝鮮半島から「ろくろ」と「窯」とともに須恵器(すえき)が伝わって来ました。当初は祈祷などの祭具として使われていましたが、次第に土師器(はじき)とともに食器として日常的に使われるようになりました。奈良時代になると中国の唐三彩(とうさんさい)の影響を受けた奈良三彩など赤・黄・緑などの色鮮やかな「焼きもの」が作られるようになります。室町時代前期まで磁器は中国からの高級輸入品でしたが、室町時代後期になると、中国の白磁や青磁といった磁器よりも朝鮮半島の高麗茶碗や日本の備前焼、信楽焼などの陶器に美しさを見出すようになります。これは茶文化が発展したことで、白っぽい磁器よりも黒っぽい陶器の方が抹茶に合うことや、千利休が「黒楽茶碗(くろらくちゃわん)」や高麗茶碗の「割高台茶碗(わりこうだいちゃわん)」を好んだことが影響していると言われています。桃山時代になると茶湯(ちゃとう)の影響を受け備前焼や信楽焼などが注目を集め、江戸時代に佐賀県の有田で日本で初めて磁器が焼かれるようになり、冒頭で紹介した「焼きもの」4種類が誕生しました。

焼きものの作り方を知ろう

伝統的工芸品の陶磁器は「◯◯焼」と呼ばれ、◯◯には日本全国の地域の名前が入るものが多いです。ひとくちに「火を使って土を焼いたもの」といっても地域ごとに使う原料や酸素が多い場所で焼くか少ない場所で焼くかなど、作り方が違うので土地ごとに異なる特徴を持った「焼きもの」が生まれます。例えば原料の粘土は、含まれている鉱物の違いによって色も違えば、粘りの強弱も異なります。また、釉薬をかけるかかけないか、また使用する釉薬にも地域ごとに特色があります。

さて、これまで「焼きもの」の歴史を見て来たので、この章では具体的に「焼きもの」はどのように作られるのか、4種類の「焼きもの」の制作過程とそれぞれの違いについて詳しく見ていきましょう。

陶磁器の原料

まずは原料の粘土から見ていきましょう。
粘土は普通の土よりも細かい板状の粘土鉱物と呼ばれる粒子でできている土のことで、水を含むと粘りが出て様々な形に変形することができます。また、すぐ崩れたりせずに乾燥させると形を保つことができますが、乾燥させただけだと長時間水に浸かっていると、元の粘土に戻ってしまいます。しかし、乾燥させたものを一度480度以上の温度で焼くと、もう水に溶けなくなります。この性質を利用して作られたのが土器です。

ただ、低い温度で焼かれた土器は水に溶けなくなったとしても土の隙間から水が漏れたり、壊れやすい「焼きもの」です。1,100度以上の温度で焼くと土が変化して、隣同士の粒子がくっついて一体化します。このとき粘土の中の鉱物と自然にかかった灰などが表面で溶けてガラス化して自然釉がかかります。このように高い温度で焼くことで土は硬く焼きしめられ、表面はガラス化し、水漏れしなくなる「焼きもの」を作ることができます。

次に陶器と磁器それぞれの作り方を比較していきます。

陶器の作り方

①土をねる

陶土を掘り出し、不純物を取り除き、乾燥させた後に手でよくこねます。

②成形

ろくろなどを用いて器の形を作ります。

③素焼き

乾燥させてから、700〜800度の窯で焼きます。素焼すると表面が硬くなり釉薬をかけやすくなります。

④釉薬がけ

釉薬をかけます。ハケで塗る、液をかける・つけるなどの方法があり、この前に下絵を書くことも。

⑤本焼成

窯に入れて1,000〜1,300度の高温で、2〜3日間ほどかけて焼き上げます。

磁器の作り方

①石を砕く

石を砕いて細かい粉にします。

②土をねる

水を加えてよくかき混ぜ、水に沈んだ土の水分を切り磁器土(じきど)を作ります。

③成形

陶器と同様。

④素焼き

陶器と同様。

⑤下絵付け

焼くと青色になる絵の具、呉須で下絵をつけます。

⑥釉薬がけ

陶器と同様。

⑦本焼成

約1,300度前後の高温で長時間焼きます。

⑧上絵付け

赤・黄・緑などの上絵の具で色を付けます。

⑨上絵焼き

800度前後の低温で焼きます。

陶磁器の焼成

最後に焼成について見ていきましょう。
窯を使うことで高温での焼成が可能になります。窯の種類は、薪窯と呼ばれる薪を使う窯(登り窯など)と、電気やガスといった薪以外の燃料を使う窯(電気釜、ガス釜)に大きく分類されます。薪窯の燃料である赤松(あかまつ)の入手が困難になったため、現在はガス窯が主流になっています。

登り釜
カエルくん

「赤松」は油分が多くて炎が強くなる特徴があるんだ!

自分好みの焼きものを見つけよう

いかがでしたか?
ひとくちに「焼きもの」「陶磁器」といってもそれぞれに違いがあることがお分かりいただけたかと思います。
越前で作られたものは越前焼、備前で作られたものは備前焼…それぞれ土地の名前がつくなど、陶磁器と土地との間には深い関わりがあるのです。現在、北は福島県から南は沖縄県まで日本各地で全32品目が伝統的工芸品として指定されています。(※2024年8月時点)
陶器なのか磁器なのか、釉薬をかけるかかけないか、肌触りや色合い、使用用途などあなた好みの「焼きもの」が見つかるきっかけになれば嬉しいです!
そして、陶磁器に興味を持った方はぜひ産地に行って職人さんとお話ししながら選んでみてください。製作体験を開催している工房などもあるので、自分で好みの「焼きもの」を作ってみるのもおすすめです!きっと今まで以上に食卓が彩られること間違いなしです!

カエルくん

工房にカフェが併設されている場所では、産地の陶磁器での飲食体験ができるんだ!

参考文献

伝統工芸のきほん①焼きもの:理論社
やきものの絵本:社団法人 農山漁村文化協会
日本の伝統工芸のみりょく 食にかかわる伝統工芸①焼き物と金工品:ポプラ社

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
この記事の目次