この記事では全国各地に存在する、全243品目(※2024年10月17日時点)の伝統的工芸品を都道府県ごとに紹介する連載シリーズです。いきなり全243品目に目を通すのは大変だと思うので、まずは自分の地元の伝統的工芸品を知るところから始めてみるのはどうでしょう。
第37回は富山県編!それでは早速見ていきましょう!
経済産業省が指定する伝統的工芸品とは
地元の伝統的工芸品を知る前に、「伝統的工芸品とは何か」というところから説明していきます。
まず、「伝統工芸品」とは長年受け継がれている技術や技法を用いて作られた工芸品のことをいいます。その数は各都道府県で指定されているものだけでも1,300品目を超えています。指定に統一のルールはなく、各自治体が独自のルールを設けて指定しています。一方「伝統”的”工芸品」とは昭和49年に制定された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」に基づき、経済産業大臣の指定を受けた工芸品を指します。
詳しくは第1回の北海道編で紹介していますので、そちらをご覧ください。
富山県の土地特性
富山県は黒部・宇那月エリア、立山エリア、富山エリア、砺波・五箇山エリア、高岡・氷見エリアの5つのエリアに分けられます。3,000m級の山々が連なる立山連峰から水深1,000mを越える富山湾に至るまで、高低差はなんと4,000m。日本において、海越しに3,000m級の山々を眺めることができる場所は雨晴海岸から氷見海岸一帯のみです。
黒部峡谷は日本一深いV字型の峡谷なんだって!
経済産業省が指定する富山県の伝統的工芸品
富山県には高岡銅器(たかおかどうき)、井波彫刻(いなみちょうこく)、高岡漆器(たかおかしっき)、越中和紙(えっちゅうわし)、庄川挽物木地(しょうがわひきものきじ)、越中福岡の菅笠(えっちゅうふくおかのすげがさ)の6品目があります。「富山の薬売り」として有名な富山県では、古くから薬包紙に用いられる和紙の生産も盛んに行われていました。それでは、どんな伝統的工芸品があるか見ていきましょう!
高岡銅器(たかおかどうき)
高岡銅器は、江戸時代初期に前田利家(まえだとしいえ)の奨励により、鋳物の発祥地である河内丹南の技術を持った7人の鋳物職人を高岡に招いて、鋳物工場を開設したことが始まりです。また、高岡は銅器生産の全国シェアの90%を占めています。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/0708/
1 鋳型造りは、次の技術又は技法によること。
(1) 砂型であること。
(2) 溶湯と接する部分の鋳物砂には、双型、焼型又はろう型にあっては、「紙土」又は「真土」を用い、生型にあっては、「肌砂」を用いること。
(3) 鋳型の造型は、「挽き型」又は「込め型(「ろう型」を含む。)」によること。
(4) 双型、焼型又はろう型にあっては、鋳型の焼成又は乾燥(「肌焼き」を含む。)をすること。
(5) 生型にあっては、原型抜きには、「水筆」によること。
2 鋳物の表面に彫金をする場合には、手作業によること。
3 鋳物の表面は、「煮込み法」若しくは「焼色法」により又は漆若しくは鉄しょうを用いて着色をすること。
■原材料
1 鋳物の素材は、銅合金とすること。
2 着色剤に用いる漆は、天然漆とすること。
分類
金工品
指定年月日
1975年2月17日
井波彫刻(いなみちょうこく)
井波彫刻は、瑞泉寺(ずいせんじ)と深い関わりがあります。江戸時代中期の大火により焼失した本堂再建のため、京都の本願寺より御用彫刻師である前川三四郎が派遣されました。この時、地元大工の田村七左衛門など4名もこれに参加し、彫刻の技法を習ったのが井波彫刻の始まりです。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/0615/
1 欄間にあっては、次の技術又は技法によること。
(1) 彫りは、「みこみ取り」及び「覆輪こぼし」をした透かし深彫りとすること。
(2) 仕上げは、「線彫り」、「浮彫り」及び「肉合彫り」によること。
(3) 使用する板材の厚さは、45ミリメートル以上とすること。
2 置物にあっては、次の技術又は技法によること。
(1) 彫りには、のみ及び彫刻刀を用いること。
(2) 仕上げは、「ちりめん彫り」とすること。
(3) 獅子頭を彫刻する場合には、上あご及び下あごを一体として彫り込み、「小彫り」段階でそれぞれを切り離すこと。
(4) 天神を彫刻する場合には、次のいずれかによること。
イ 「差し首」の天神にあっては、頭及び銅をそれぞれ別に彫り込み、仕上げ彫りの後、一体とすること。
ロ それ以外の天神にあっては、頭及び胴を一体に彫り込んだ後、仕上げ彫りをすること。
3 「木彫額」及び衝立にあっては、次の技術又は技法によること。
(1) 彫りは、「みこみ取り」又は「覆輪こぼし」をした透かし彫り又は「浮彫り」によること。
(2) 仕上げは、「線彫り」、「浮彫り」、「肉合彫り」及び「ちりめん彫り」によること。
■原材料
原木は、欄間、「木彫額」及び「衝立」にあってはクス若しくはケヤキ又はこれらと同等の材質を有する用材とし、置物にあっては、クス、ケヤキ若しくはキリ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。
分類
木工品・竹工品
指定年月日
1975年5月10日
高岡漆器(たかおかしっき)
高岡漆器は、江戸時代初期に加賀藩の藩主である前田利長(まえだとしなが)が高岡城築城の際に武具・箪笥・膳等、日常生活品を作らせたのが始まりです。彫刻塗・錆絵(さびえ)・螺鈿(らでん)・存星(ぞんせい)など多彩な技術が生み出され、高岡漆器独特の「勇助塗」「彫刻塗」「青貝塗」の3種類の技法が特徴です。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/0512/
1彫刻塗にあっては、次の技術又は技法によること。
(1)彫刻は、「肉付け」、「間すき」及び「地肌すき」によること。
(2)下地は、彫刻部分にあっては生漆に松煙等を混ぜ合わせたものを繰り返し塗付することにより「すり込み地」をし、その他の部分にあっては生漆の砥の粉を混ぜ合わせたものを繰り返し塗付することにより「さび地付け」をすること。
(3)上塗は、中塗及び中塗研ぎした後、赤色又は三色以上の精製彩ろいろ漆を塗付すること。
(4)仕上げは、「古味付け・古味落とし」をした後、油砥の粉等でみがくこと。
2勇助塗にあっては、次の技術又は技法によること。
(1)下地は、「布着せ」又は「紙はり」をした後、「地付け」、「きり粉地付け」及び「さび地付け」をすること。
(2)上塗は、中塗及び中塗研ぎをした後、精製漆を塗付すること。
(3)加飾は、「玉石付け」、「さび絵描き」及び「箔絵描き」のうち少なくとも二つの組み合わせによること。
(4)仕上げは、「ろいろ塗」によること。
3青貝塗にあっては、次の技術又は技法によること。
(1)下地は、「布着せ」又は「紙はり」をした後、「地付け」、「きり粉地付け」及び「さび地付け」をすること。
(2)貝付けは、「胡粉はき・胡粉落とし」又は「さび巻き」によること。
(3)仕上げは、「ろいろ塗」によること。
■原材料
1漆は、天然漆とすること。
2木地は、カツラ、トチ、ホオ若しくはヒバ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。
分類
漆器
指定年月日
1975年9月4日
越中和紙(えっちゅうわし)
越中和紙とは、薬包紙として重宝された八尾和紙(やつおわし)、加賀藩で使われる紙や神社の障子紙として発展した五箇山和紙(ごかやまわし)、書画用紙として活用された蛭谷和紙(びるだんわし)など、富山県内で作られる3つの和紙の総称です。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/0902/
1抄紙は、次の技術又は技法によること。(1)「流し漉き」又は「溜め漉き」によること。
(2)簀は、竹製又は紗製のものを用いること。
(3)「ねり」は、トロロアオイを用いること。
2乾燥は、「板干し」又は「鉄板乾燥」によること。
■原材料
主原料は、コウゾ、ミツマタ又はガンピとすること。
分類
和紙
指定年月日
1988年6月9日
庄川挽物木地(しょうがわひきものきじ)
庄川挽物木地は、天然の木を手作業で挽いた工芸品であり、全国の漆器産地で木地として使用されています。日本初の伝統的工芸材料として、伝統的工芸品に指定されました。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/1501/
1横ロクロ及びぜんまい鉋を用いる荒挽き及び荒仕上げ削りをすること。この場合において、自然乾燥及び強制乾燥をすること。
2横ロクロ、からかさ鉋及びうす刃を用いる仕上げ削りをすること。
3手作業による仕上げ磨きをすること。
■原材料
木地は、トチ、ケヤキ、マツ、サクラ、イヌエンジュ、クワ、カツラ、セン、イチョウ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。
分類
工芸材料・工芸用具
指定年月日
1978年7月14日
越中福岡の菅笠(えっちゅうふくおかのすげがさ)
菅笠とは雨除け・日除けとして農作業を支えてきた被り物の一種です。福岡町近隣はスゲの自生に適していたことで菅笠の生産が始まり、江戸時代に加賀藩の奨励を受けたことでスゲ栽培と菅笠の生産が盛んになりました。作られた菅笠は「加賀笠」の名で全国に出荷され、広がっていきました。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/1419/
1「笠骨」は、次の技術又は技法によること。
(一)「外輪骨(がわぼね)」は、「爪」を施して輪にし、「爪」を重ねて留めること。
(二)「中骨」は、頭頂部の重なり部分を薄く削り、「外輪骨」に差し込むこと。
(三)曲げ工程をする場合は、「中骨」を加熱して曲げること。
2「笠縫い」は、次の技術又は技法によること。
(一)笠裏には、「シカケ」をすること。
(二)「ノズケ」で取り付けた菅草をしごいた後、糸で縫い上げること。
(三)頭頂部は、「頭止め」をすること。
■原材料
1使用する竹材は、外輪骨には、カラタケマダケ若しくはモウソウチク又は、これらと同等の材質を有するものとすること。中骨には、メダケ又はこれと同等の性質を有するものとすること。
2菅草は、カサスゲ又はこれと同等の性質を有するものとすること。
分類
その他の工芸品
指定年月日
2017年11月30日
一度は行きたい関連施設
富山県には6つの伝統的工芸品があることがわかりました。前田利長の高岡城築城に関わっている工芸品が多かったですね。それでは富山県で伝統工芸を見学・体験できる施設を見ていきましょう!
高岡地域地場産業センター(ZIBA)
高岡地域地場産業センターは、 地場産業を広く県内外に発信するために(昭和58年)に設立されました。2020年(令和2年)に移転した御旅屋セリオ2階では、常設展示場・産業資料館を設け富山県内の6つの伝統的工芸品の展示・販売、製作工程や歴史について紹介しています。
五箇山 和紙の里
合掌造りの「和紙体験館」では、五箇山和紙すきを体験することができます。他にも五箇山和紙の歴史資料をはじめ、和紙製品の販売、製造工程などが紹介されている「和紙工芸館」などを通じて五箇山の伝統産業を学ぶことができます。
KANAYA ショールーム
KANAYA ショールームは、高岡市にある高岡銅器製品のショールームです。 商品の展示の他にも、錫の板を専用の木型に入れて木槌でたたいて錫のうつわを作る「うつわ製作体験」を行うことができます。
有限会社 桂樹舎
桂樹舎では和紙工房見学、越中八尾の紙漉き体験を行うことができます。また、隣接する和紙文庫では、世界各国の紙が使われた調度品や生活用品、日本の古写経から江戸期後期の生活用品などの「紙」をテーマに幅広く集められた貴重な民芸品・工芸品が展示されています。
株式会社 能作
1916年(大正5年)創業の能作本社工場では、工場見学や鋳物製作体験を行うことができます。また、地元食材を使った食事を能作の食器で提供するカフェや本社限定品などの商品を扱うショップなどが併設されています。
最後に
富山県編、いかがでしたでしょうか?
見学・体験施設は、展示内容や体験内容の他にも「建物の造り」に興味を惹かれるものが多いです。これも森林資源が豊富であることや、日本でも有数の豪雪地帯であることなど、富山県ならではの特徴です。富山県を訪れた際には、ぜひ建物にも目を向けてみてください!
「ホタルイカは足が早い」これってどんな意味か分かるかな?
参考サイト/文献
- 伝統工芸 青山スクエア|https://kougeihin.jp/
- 経済産業省中部経済産業局ホームページ|https://www.chubu.meti.go.jp/index.html
- 伝統工芸高岡漆器協同組合|https://takaokashikki.jp/
- 日本橋とやま館|https://toyamakan.jp/
- 庄川木工挽物会|https://www.shokoren-toyama.or.jp/~shogawa-wood/
- 越中福岡の菅笠振興会|https://sugegasa.jp/
- 公益財団法人高岡地域地場産業センター |https://www.takaokajibasan.or.jp/
- 五箇山 和紙の里|https://gokayama-washinosato.com/
- 株式会社 KANAYA|https://kanaya-t.jp/
- 有限会社桂樹舎|https://keijusha.com/
- 株式会社 能作|https://www.nousaku.co.jp/
- 47都道府県・伝統工芸百科(丸善出版)
- 都道府県別 伝統工芸大辞典(あかね書房)