本記事では、国が発表している伝統的工芸品産業に関連するレポートから、伝統的工芸品産業の現状を考察してみたいと思います。
普段なかなか目にする機会は少ないと思いますが、伝統的工芸品産業に起きていること、これから起こりそうなことを把握する際には、国が発表するレポートは大いに参考になります。
今回取り上げるレポートは、
伝統的工芸品産業の自立化に向けたガイドブック(令和4年5月)です。
ガイドブック自体は全部で83ページにもわたるボリュームですが、ここでは焦点を絞って、10分〜15分程度で大まかな内容を掴めるものになっていますので、是非最後までご覧ください。
もっと詳しく知りたい方は、公開されているレポートを読んで貰えればと思います。
伝統的工芸品産業の生産額は長期的に減少傾向となっていますが、自立的に行動し、新たな取り組みを通じて市場を切り拓き、成長している産地もみられます。こうした伝統的工芸品の各産地の新たな取り組みを支援するため、経済産業省では「伝統的工芸品産業支援補助金」をはじめとした伝統的工芸品に関わる各種取り組みを進めているほか、「地域資源法」に基づく各種施策、「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」などをはじめとした各種中小企業関連施策なども充実させています。このほか、内閣府の「地方創生交付金」など、自治体と連携することで申請できる地域活性化に対する支援施策もあります。このような各種支援がある中、伝統的工芸品を扱う各産地による自立的な成長・発展を支援するために、本ガイドブックでは、「自立化」の意義を捉え直すとともに、産地の自立化に向けてヒントになるような考え方・取り組み方法を紹介しつつ、「伝統的工芸品産業支援補助金」の活用方法について説明しています。
引用:伝統的工芸品産業の自立化に向けたガイドブック(令和4年5月)
伝産補助金とは
国の支援策の一つである「伝統的工芸品産業支援補助金(以下、伝産補助金)」。
この支援策についての活用方法を、事例を交えたり、手法を紹介することで、より効果的な支援を行うために作成されたのが「伝統的工芸品産業の自立化に向けたガイドブック」です。
「伝産補助金」とは最大で補助金交付額2,000万円、補助率2/3の補助が受けられる制度です。
補助対象事業は下記の5つ。
- 振興計画(伝産法第4条)に基づく事業
- 共同振興計画(伝産法第7条)に基づく事業
- 活性化計画(伝産法第9条)に基づく事業
- 連携活性化計画(伝産法第11条)に基づく事業
- 支援計画(伝産法第13条)に基づく事業
補助対象者は、「伝産法に基づき各種計画の認定を受けた組合、団体及び事業者等」となっており、「伝産補助金」に申請するためには、各締切りの1ヶ月前までに該当する計画の申請を行う必要があります。
伝統的工芸品産業の自立化に向けたガイドブック(令和4年5月)の全体像
ガイドブックは5つの章で構成されています。
- 第1章(導入編)
- 第2章(計画策定編)p17~
- 第3章(手法編) p46~
- 第4章(アドバイザー編) p60~
- 第5章(資料編) p63~
第1章(導入編)では本記事の冒頭で取り上げた「伝産補助金とは」のセクションの内容や、自立化の意義等が詳しく説明されています。
第2章(計画策定編)ではSWOT分析などのフレームワークを用いて、振興計画を立てる際のポイントが詳しく解説されています。「後継者育成」「原材料確保対策事業」「意匠開発事業」など、申請者が自分の事業に置き換えながら考えられるように様々な事業パターンに触れながら、丁寧に解説されています。
第3章(手法編)では、事業内容をより具体化し、実効性のある内容とするための方法について「旭川家具」のビジョンを例に挙げながら、具体的に提示されています。
第4章(アドバイザー編)では、自治体職員や民間支援者がアドバイスする際に心がけることについて記載されています。
第5章(資料編)では7事業者の参考事例と「伝統的工芸品産業の成長支援に関するアンケート調査」のアンケート結果が記載されています。
伝産補助金の活用状況
レポートの順番とは前後しますが、まずは第5章(資料編)を見ることで、伝統的工芸品産業の現状や他社の状況を把握していきます。その後、第2章(計画策定編)、第3章(手法編)を見ることで、他社事例を参考にしながら「自分の事業なら◯◯」といったような、具体的なイメージに繋げていきましょう。
7事業者の参考事例
- 木曽漆器工業組合(産地の強みを活かした市場の開拓)
- 旭川家具工業協同組合(ビジョンの策定と若手が大切にされる文化の醸成)
- 燕三条地場産業振興センター(分業工程の一工程の技術だけでのビジネスマッチング体制の構築)
- 高岡市デザイン・工芸センター(分業工程の他工程の技術の学びを促進するスクールの設置)
- 高岡伝統産業青年会(オープンファクトリーの試みと若手職人のネットワークの構築)
- 西陣織工業組合(専門家と連携による産地実態調査)
- ㈱能作(需要を踏まえた体制の拡充)
以上の事業者(事業内容)が紹介されています。図解なども用いて各事例毎にA4で1ページにまとめられており、非常にわかりやすいので是非読んでみてください。
参考
伝統的工芸品産業の自立化に向けたガイドブック(令和4年5月)
明示的に記されているわけではないですが、バリューチェーンの見直し、デザインの重要性、コラボレーション(外部専門家との連携)の充実、の3つのキーワードが内在しているのではないかと推察できます。
次にアンケートに触れながら、個別→全体に、目を移してみましょう。特に気になったアンケートの質問・回答を紹介します。
組合の事務局の専属社員数
結果・考察:専属社員が少ない為、補助金支援や情報発信にまで手が回らない。
活用している、もしくは活用したことのある補助金
結果・考察:伝産補助金の利用者が約50%に留まっている。
現在アドバイザーを活用しているか
結果・考察:外部の知見を適切に活用できていない。
組合の体制や事業についての満足度
結果・考察:組合と所属事業者との連携不足。
特に最後に紹介したアンケートの結果には驚きました。補助金を活用している組合に属している方が、していない組合に属する事業者よりも、満足度が低いのです。これには様々な理由が考えられますが、「専門家に頼らず事業計画を作った結果、事業者に負担のかかる内容になってしまった」「補助金を申請するための計画書になっており、本来進みたい道ではなくなった」「専属社員が少ないため、事務局と事業者とのコミュニケーションが不足している」などが、理由の候補に上げられるのではないでしょうか。補助事業に採択されたからといって、必ずしも上手くいくといったわけではないようです。
アンケートの結果から、補助金受給の為だけの計画や、負担が増えるような計画にならないように注意する必要があることがわかりました。そこで大いに参考になるのが第2章(計画策定編)、第3章(手法編)です。
まずは自分に合った事業計画書を作ってみよう
前置きが長くなりましたが、
「伝統的工芸品産業の自立化に向けたガイドブック(令和4年5月)」のコアの部分は第2章(計画策定編)、第3章(手法編)です。ビジョンの策定方法や、市場調査方法からマネジメント手法まで、計画書を作る上で外せない要素が盛りだくさんです。伝産補助金に限らず、どの補助金・助成金にも言えることですが、初めから申請書の形式に沿った計画書を作ろうとすると、途中で詰まってしまいます。
まずは第2章(計画策定編)、第3章(手法編)を参考にしながら、自身の事業について、ノートに書き出してみてください。申請書の形式に当てはめたり、事業計画書作成のフレームワークを使うのはそれからでも問題ありません。一見すると遠回りのようですが、自社の事業について深掘りする機会だと考え、一度やってみましょう。汎用性の高い事業計画書を作ることで、伝産補助金申請時に限らず、他の補助金・助成金申請時や、金融機関・提携企業への自社説明資料として活躍してくれることでしょう。
いかがでしたでしょうか。普段、目にする機会が少ない国のレポートですが、活用次第では自身の事業の発展に役立つ情報が詰まっていることがお分かりになったかと思います。登録の手間がかからないことや、無料で見れるのも大きなメリットです。是非活用してみてください。