知花花織とは?
知花花織(ちばなはなおり)は、沖縄県沖縄市知花地区を中心に受け継がれる伝統的な織物で、緯糸に色糸を織り込んで花のような幾何学模様を表現する技法が特徴です。布面に浮かび上がる彩り豊かな模様は、まるで咲き誇る花々のような美しさを持ち、古くは王族や士族階級の衣装にも用いられました。現在では沖縄の文化を象徴する織物のひとつとして、工芸品やファッションアイテムにも応用されています。
品目名 | 知花花織(ちばなはなおり) |
都道府県 | 沖縄県 |
分類 | 織物 |
指定年月日 | 2012(平成24)年7月25日 |
現伝統工芸士登録数(総登録数) ※2024年2月25日時点 | 5(5)名 |
その他の沖縄県の伝統的工芸品 | 南風原花織、久米島紬、宮古上布、読谷山花織、壺屋焼、琉球絣、琉球漆器、与那国織、八重山ミンサー、喜如嘉の芭蕉布、八重山上布、首里織、読谷山ミンサー、琉球びんがた、三線(全16品目) |

知花花織の産地
沖縄市・知花に息づく、色彩と技の系譜

知花花織は沖縄本島中部に位置する沖縄市知花地区で主に生産されています。この地域は古くから織物文化が栄え、琉球王府時代には特産品として知られていました。現在も知花地区の工房を中心に、伝統技法を受け継ぐ職人たちが日々織りの制作を行っています。
近年では沖縄市文化協会や織物組合、知花花織保存会などによる保存・継承活動が活発に行われ、後継者育成や地域振興にも貢献しています。
知花花織の歴史
王府の華やぎを今に伝える、知花の織り文化
知花花織は、琉球王府時代に士族の衣装などとして織られていた「花織」の一系統であり、その技法は沖縄各地に伝わっています。知花地区では、模様織の技術と色彩感覚に優れた花織が独自に発展しました。
- 18世紀:知花地区で花織技法が定着し、士族階級の衣装に用いられる。
- 19世紀:琉球王府が花織を奨励。知花の花織も特産布として知られる。
- 20世紀初頭:王府崩壊後、生産が一時衰退。
- 1974年:地元有志による復元活動が始まり、旧資料をもとに試織が行われる。
- 2012年(平成24年):知花花織が経済産業大臣より「伝統的工芸品」に指定される。
知花花織の特徴
色糸で咲かせる、織りの花模様
知花花織の最大の特徴は、緯糸に色糸を部分的に織り込んで、花のような幾何学模様を立体的に浮かび上がらせる「浮き織」技法です。これは絣や染めと異なり、織りだけで模様を表現する高度な技術で、布面に立体感と陰影を生み出します。
色彩は赤・黄・青・緑などが多用され、布全体にわたってリズミカルに配置された模様は、等間隔で横並びになる正方形や十字形、菱形などが代表的です。たとえば、赤と黄の正方形が交互に横一列に並ぶような配置や、青と緑の十字形が斜めに交差するようなデザインは、視覚的に非常に印象的で、鮮やかな沖縄の自然や植物のイメージを呼び起こします。

知花花織の材料と道具
彩りと強度を生む、沖縄の素材と職人の手
知花花織の製作には、綿や絹を主材料に、天然染料を使って糸に色を付ける工程が含まれます。織りに必要なすべての工程が手仕事で行われ、特に模様部分は高い精度と根気を要する作業です。
知花花織の主な材料類
- 綿糸・絹糸:布の風合いや使用目的により使い分け。
- 天然染料:藍・茜・福木など、沖縄の自然由来の染料を使用。
知花花織の主な道具類
- 高機:水平の織機で模様の位置を精密に調整。
- 桶や染料用具:糸の染色に使用。
- 模様織り用の道具:色糸を指定箇所に挿入するための補助具。
自然の素材と、知花の職人たちの丁寧な仕事によって、一反の布に花の文様が織り込まれていきます。
知花花織の製作工程
模様の配置まで緻密に設計された、丹念な布づくり
知花花織の製作は、糸づくりから染色、整経、模様設計、そして織りに至るまで、すべてが手作業で進められます。
- 糸の準備
綿や絹の糸を精練・糊付け。 - 染色
天然染料で緯糸を染め分ける。 - 整経
経糸を機に合わせて巻き取る。 - 模様設計
色糸の配置を図案化。 - 織機セット
経糸を高機に張る。 - 織り
緯糸を挿入し、模様部分では色糸を浮かせて織る。 - 仕上げ
洗い・糊落とし・整形。
模様の配置が緻密に設計されているため、織りの途中でも常に図案を確認しながら作業が進められます。
知花花織は、沖縄市知花の自然と歴史、そして人々の感性が織り上げられた伝統的工芸品です。伝統の中に生きる鮮やかな色彩と図案は、衣服や帯、小物などさまざまな形で現代の暮らしにも溶け込みつつあります。
