宮古上布とは?

宮古上布(みやこじょうふ)は、沖縄県宮古島市で作られる伝統的な麻織物で、日本三大上布の一つにも数えられます。苧麻(ちょま)の繊維を手でつないで糸を績(う)み、琉球藍で何度も染め上げて織り上げられるこの布は、極めて軽く、涼やかで、優れた耐久性を持ちます。
その完成度の高さから、かつては琉球王府への献上品とされ、現在では国の重要無形文化財にも指定されています。職人の繊細な手仕事と島の自然が織りなす宮古上布は、まさに日本を代表する麻織物の最高峰といえるでしょう。
品目名 | 宮古上布(みやこじょうふ) |
都道府県 | 沖縄県 |
分類 | 織物 |
指定年月日 | 1975(昭和50)年2月17日 |
現伝統工芸士登録数(総登録数) ※2024年2月25日時点 | 2(9)名 |
その他の沖縄県の伝統的工芸品 | 南風原花織、久米島紬、読谷山花織、読谷山ミンサー、琉球絣、首里織、与那国織、喜如嘉の芭蕉布、八重山ミンサー、八重山上布、知花花織、琉球びんがた、壺屋焼、琉球漆器、三線(全16品目) |

宮古上布の産地
南国の陽光と風が育む、宮古島の織の風景

主要製造地域
宮古上布の産地は、沖縄本島の南西に位置する宮古島。透明度の高い海と豊かな自然に囲まれたこの島では、苧麻の栽培から糸づくり、染織、仕上げまでが地場で一貫して行われています。島内には宮古織物事業協同組合をはじめとする保存会や工房が点在し、伝統を守りながら次世代育成にも力を注いでいます。
訪れた人々は、伝統的な苧麻績みや砧打ちの実演に触れ、職人の熟練の技と精神を間近で感じることができます。風土と文化に支えられたものづくりが、今も島の暮らしの中で息づいています。
宮古上布の歴史
海とともに語り継がれる、献上布の物語
宮古上布には、王府と島民の誇りが込められた歴史があります。その起源は16世紀末、琉球王国への献上品として織られたことにさかのぼります。
- 16世紀末:宮古島の役人・栄河氏真栄が明への航海中、台風で遭難しかけた船を修理し、王に功績を称えられる。妻の稲石がその喜びを織物に託し、王に献上したとされる逸話が伝わる。
- 17〜18世紀:上布は貢納布として定着。織物技術が島に深く根づく。
- 明治〜昭和初期:生活着として広く普及。戦後に一時衰退。
- 1975年(昭和50年):宮古上布が経済産業大臣より「伝統的工芸品」に指定される。
- 1978年(昭和53年):国の「重要無形文化財」に指定される。
宮古上布の特徴
極細の糸と藍が織りなす、軽さと光沢の極致
宮古上布の魅力は、苧麻繊維から手績みで作られる極細の糸と、黒に近いほど深い藍色、そして独特の絣模様にあります。風通しのよさと軽さ、そして肌にまとわりつかないさらりとした質感から、かつては「夏衣の最高峰」とも評されました。
また、織り上がった布は「砧打ち(きぬたうち)」と呼ばれる工程によって木槌で何時間も叩かれ、艶と柔らかさを得ます。この仕上げによって、ざらついていた表面が驚くほど滑らかになり、独自の光沢が生まれます。布の表情と耐久性は、職人の手間と技術の結晶そのものです。

宮古上布の材料と道具
自然素材が宿す、宮古の涼と力
宮古上布の製作では、苧麻を中心とした天然素材が使用されます。すべての工程において化学処理は行われず、素材本来の強さと美しさを引き出す工夫が凝らされています。
宮古上布の主な材料類
- 苧麻(ちょま)繊維:宮古島や沖縄本島で栽培される。
- 琉球藍:深い藍色を何度も重ねて染める天然染料。
- 木綿糸:絣括りに使用される。
宮古上布の主な道具類
- アワビの貝殻:繊維をしごいて取り出す伝統道具。
- 績み用の道具:指先で糸を績む作業に用いる。
- 織機:手織りによる絣模様の再現に使用。
- 砧(きぬた):布に艶を出すための木槌。
こうした素材と道具は、職人の手になじむよう改良が重ねられており、道具そのものもまた貴重な文化財といえます。
宮古上布の製作工程
一反に込められた、時間と技の軌跡
宮古上布の製作は、非常に緻密で根気のいる工程によって支えられています。各工程がすべて手仕事で行われ、わずか1日20cmしか織れないこともあるといわれます。
- 苧麻から繊維を取る
茎の表皮をはぎ、アワビの貝でしごいて繊維を取り出す。 - 糸績み(いとうみ)
繊維を細かく割き、指先で撚りながら糸をつなげていく。 - 図案の作成・絣締め
模様の設計図をもとに、白く残したい部分を木綿糸で括る。 - 染色
琉球藍で糸を何度も染め、深い藍色に仕上げる。 - 製織
括り模様がずれないよう慎重に織り上げる。 - 砧打ち
織り上げた布を折りたたみ、木槌で数時間叩いて艶と柔らかさを出す。
一反の宮古上布が完成するまでには、数ヶ月から半年以上を要することもあります。その布には、島の風と光、そして職人たちの深い誇りと粘り強さが、丹念に織り込まれているのです。
