この記事では全国各地に存在する、全243品目(※2024年10月17日時点)の伝統的工芸品を都道府県ごとに紹介する連載シリーズです。いきなり全243品目に目を通すのは大変だと思うので、まずは自分の地元の伝統的工芸品を知るところから始めてみるのはどうでしょう。
第11回は兵庫県編!それでは早速見ていきましょう!
経済産業省が指定する伝統的工芸品とは
地元の伝統的工芸品を知る前に、「伝統的工芸品とは何か」というところから説明していきます。
まず、「伝統工芸品」とは長年受け継がれている技術や技法を用いて作られた工芸品のことをいいます。その数は各都道府県で指定されているものだけでも1,300品目を超えています。指定に統一のルールはなく、各自治体が独自のルールを設けて指定しています。一方「伝統”的”工芸品」とは昭和49年に制定された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」に基づき、経済産業大臣の指定を受けた工芸品を指します。
詳しくは第1回の北海道編で紹介していますので、そちらをご覧ください。
兵庫県の土地特性
兵庫県は、飛鳥時代に置かれた摂津(せっつ)、播磨(はりま)、但馬(たじま)、淡路(あわじ)、丹波(たんば)の5つの国が一つになった県です。今でも「五国」と呼ばれ、それぞれの地域が豊かな個性を持っています。また、県の面積の約80%を山地が占めています。
世界文化遺産の「姫路城」を筆頭に国指定史跡の「22城」は全国最多なんだ!
経済産業省が指定する兵庫県の伝統的工芸品
兵庫県には播州そろばん(ばんしゅうそろばん)、丹波立杭焼(たんばたちくいやき)、出石焼(いずしやき)、播州毛鉤(ばんしゅうけばり)、豊岡杞柳細工(とよおかきりゅうざいく)、播州三木打刃物(ばんしゅうみきうちはもの)の6品目があり、地場産業に発展した工芸品が多いのが特徴です。
播州そろばん(ばんしゅうそろばん)
そろばんは室町時代後期に中国から長崎を経由して、大津地方(滋賀県)に伝わりました。安土桃山時代に豊臣秀吉が三木城を攻めた時に、大津地方へ逃れた人々がそろばん製造の技術を播州に持ち帰ったことが始まりと言われています。最盛期には360万丁のそろばんが製造されました。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/1004/
1乾燥は、次の技術又は技法によること。
(1)玉材にあっては、原木の状態で6か月以上、粗形の状態で1日以上自然乾燥をすること。
(2)軸材にあっては、竹の状態で1か月以上、生ひごの状態で1日以上自然乾燥をすること。
(3)枠材にあっては、原木の状態で6か月以上、小割材の状態で6か月以上自然乾燥をすること。この場合において、小割材は、いげた積みにより乾燥をすること。
2玉造りは、次の技術又は技法によること。
(1)「面削り」、「口切り」及び「面抑え」をすること。
(2)「穴くり」をした後、いぼたろうを用いて艶出しをすること。
(3)オノオレを玉材に使用する場合には、「赤太」部分を使用し、ベンガラ及び光明丹を用いて染色すること。
3軸造りは、次の技術又は技法によること。
(1)軸材は、「甘肌」部分を残して「ひご引き」をすること。
(2)すす竹以外の竹を軸材に使用する場合には、蒸し上げをした後、染色をすること。
4枠造りは、次の技術又は技法によること。
(1)「はと目入れ」をすること。
(2)枠の上面は、「丸みかけ」をすること。
(3)枠の裏板は、くり小刀を用いて「くり」をすること。
(4)左右の枠の仕口加工は、上枠に対しては「丸細」又は「うろこ細」により、下枠に対しては「うろこ細」によること。
(5)枠は、トクサ及びムクの葉を用いてみがくこと。
5組立ては、次の技術又は技法によること。
(1)上下の枠は、「おがみ合わせ」をすること。
(2)「目竹止め」、「裏棒止め」、「隅止め」及び「定位点打ち」をすること。
■原材料
1玉材は、オノオレ、ツゲ若しくはソヨゴ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。
2軸材は、マダケとすること。
3枠材は、コクタン、アカガシ若しくはミズメ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。
分類
文具
指定年月日
1976年6月2日
丹波立杭焼(たんばたちくいやき)
丹波立杭焼は日本六古窯の一つで、平安時代末期〜鎌倉時代初期が発祥と言われています。日本では中国から伝わった右回転(時計回り)の「手回し轆轤(ろくろ)」が主流ですが、丹波では朝鮮半島から伝わった左回転(反時計回り)の「蹴り轆轤」を取り入れているのが特徴です。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/0415/
1成形は、ろくろ成形、たたら成形、手ひねり成形又は押型成形によること。
2素地の模様付けをする場合には、彫り、はり付け、面とり、三島手、櫛目、はけ目、印花、葉型、化粧掛け又は墨流しによること。
3下絵付けをする場合には、手描きによること。
4釉掛けをする場合には、「どぶ掛け」、流し掛け、「飛び掛け」、「筒書き」又は「ふり掛け」によること。この場合において釉薬は、「灰釉」、「伊羅保釉」、「天目釉」、「あめ釉」、「なまこ釉」、「藁灰釉」、「長石釉」又は「赤どべ」とすること。
5釉掛けをしない場合には、登窯又は窖窯による焼成をすること。
■原材料
使用する陶土は、四辻粘土、弁天黒土又はこれらと同等の材質を有するものとすること。
分類
陶磁器
指定年月日
1978年2月6日
出石焼(いずしやき)
出石焼は、江戸時代後期に伊豆屋弥左衛門(いずややざえもん)が出石郡細見村に土焼窯を開設したことが始まりと言われています。その後、有田焼から指導者を招いたことで発展していきました。「雲より白い」といわれる白磁が出石焼の最大の特徴です。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/0416/
1成形は、ろくろ成形、押型成形又は素地がこれらの成形方法による場合と同等の性状を有するよう、素地の表面全体の削り整形仕上げ及び水拭き仕上げをする袋流し成形によること。
2素地の模様付けをする場合には、彫り、透かし彫り又ははり付けによること。
3下絵付けをする場合には、線描き、だみ又はつけたてによること。この場合において、絵具は、「呉須絵具」とすること。
4釉掛けは、「どぶ掛け」又は流し掛けによること。この場合において、釉薬は、「透明釉」又は「青磁釉」とすること。
5上絵付けをする場合には、線描き、だみ又はつけたてによること。この場合において、絵具は、「和絵具」又は「金銀彩絵具」とすること。
■原材料
はい土に使用する陶石は、柿谷陶石又はこれと同等の材質を有するものとすること。
分類
陶磁器
指定年月日
1980年3月3日
播州毛鉤(ばんしゅうけばり)
播州毛鉤は、1cm程度の虫に似せて作る擬餌鉤です。鉄製の鉤に数種類の鳥の羽を絹糸で巻き付け、漆や金箔を使用して仕上げます。江戸時代後半に地元の行商人が京都から技術を持ち帰ったことが始まりとされています。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/1414/
1「底漆塗り」をすること。
2「金底」にする場合には、金箔を貼り付けること。
3テグス、羽枝、獣毛、毛髪及び金糸の固定には、しけ糸を用いること。
4胴巻きに用いる素材の一端を固定した後、つの付けをすること。
5鉤軸に巻き付ける羽枝は、小羽枝の遠列が常に外側になるように用いること。
6胴巻きは、「すきあけ巻き」、「つめ巻き」、「すきあけ巻き重ね巻き」、「つめ巻き重ね巻き」又は「ぼかし巻き」のいずれかによること。
7みの毛は、6本とすること。
8「玉付け」は、「漆玉付け」をした後、金箔を貼りつけて行うこと。
■原材料
1鉤は、鉄製とすること。
2漆は、天然漆とすること。
3使用する羽毛は、ニワトリ、カラス、アヒル、スズメ、キジ、カモの羽毛又はこれらと同等の材質を有するものとすること。
分類
その他の工芸品
指定年月日
1987年4月18日
豊岡杞柳細工(とよおかきりゅうざいく)
杞柳細工の始まりは1世紀の初めまで遡り、奈良正倉院御物には「但馬国産柳箱」が収蔵されています。豊岡では、円山川の氾濫が多く米の収穫が不安定でしたが、気候と河原の荒地がコリヤナギの自生に適していたことから、コリヤナギを用いてかご作りが行われるようになりました。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/0624/
1柳行李にあっては、次の技術又は技法によること。
(1)「水漬」をすること。
(2)「弓糸」には、「竹弓」を用いること。
(3)「差し」は、「弓糸」を「さん木」に固定して行うこと。
(4)「編み」は、「押え木」で固定して行うこと。
(5)「孫入れ」をすること。
(6)「山起し」には、「当木」と木鎚を用いること。
(7)「縁巻き」には、「とじ」を用いること。
2小行李にあっては、次の技術又は技法によること。
(1)「水漬」をすること。
(2)「弓糸」には、「竹弓」を用いること。
(3)「編み」は、「押え木」で固定して行うこと。この場合において、「編み」は、「平編」及び「山編」によること。
(4)「縁巻き」には、「とじ」を用いること。
3柳籠及び籐籠は、次の技術又は技法によること。
(1)「柳割り」をする場合には、「割り子」を用いること。
(2)「面取」をする場合には、「幅決め」を用いること。
(3)「水漬」をすること。
(4)「底編」は、「割十字底編」、「十字底編」、「井桁底編」、「米字底編」、「小判底編」、「角底編」又は「共底編」によること。
(5)「共底編」をしない場合には、「立芯曲」をした後、「縄編」をすること。
(6)「側編」は、「並編」、「縄目編」、「飛編」又は「変わり編」によること。
(7)「縁組」は、「共縁」又は「巻縁」によること。
(8)「蓋編」する場合には、「並編」、「縄目編」又は「飛編」によること。
■原材料
1主材料は、コリヤナギ又は籐とすること。
2使用する竹材は、マダケ、モウソウチク又はこれと同等の材質を有するものとすること。3使用する糸材は、麻又はこれと同等の材質を有するものとすること。
4使用する側補強材は、帆布若しくはこれと同等の材質を有するもの又は皮革とすること。
分類
木工品・竹工品
指定年月日
1992年10月8日
播州三木打刃物(ばんしゅうみきうちはもの)
安土桃山時代の羽柴(豊臣)秀吉の三木城攻めのあと、焼け野原となった町の復興のため全国から大工と鍛冶職人が集まりました。復興がひと段落したあと、大阪や京都に出稼ぎに行った大工たちの道具が評判になり、三木の大工道具が全国に広がりました。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/0712/
1鑿、鉋及び小刀の刃物鋼は鉄及び炭素鋼を炉で熱し、鎚打ちにより鍛接すること。この場合において、小刀にあっては、二丁取りを行うこと。
2成形は、刃物鋼を炉で熱し、鎚打ちによる打ち延ばし及び打ち広げをすることにより行うこと。
3鑿、鉋及び小刀の焼入れは、「泥塗り」を行い急冷すること。
4鋸及び鏝にあっては、焼入れ後、押さえ込んで歪取りを行うこと。
5「歪取り」、「刃付け」、「研ぎ」及び「仕上げ」は、手作業によること。
■原材料
1使用する素材は鉄及び炭素鋼とすること。
2柄及び鉋の台は、木製とすること。
分類
金工品
指定年月日
1996年4月8日
一度は行きたい関連施設
兵庫県には6つの伝統的工芸品があることがわかりました。「金物のまち」として有名な三木市は、折り畳み式ナイフである「肥後守(ひごのかみ)」の産地です。三木の組合業者以外は使えない登録商標であり、海外にも多くのファンを持っています。そんな三木金物の歴史を学べる資料館をはじめ、兵庫県の伝統的工芸品の歴史の学習・体験できる施設を紹介します。
三木市立金物資料館
1976年(昭和51年)に開館した金物資料館には、金物に関する貴重な資料や金物製品が保存・展示されています。隣接する古式鍛錬場では、原則毎月第1日曜日に「三木金物古式鍛錬技術保存会」が鍛冶を実演しています。
そろばんビレッジ
本物の「播州そろばん」の部材を使い、世界に一つだけのMyそろばんを作ることができます。そろばん学習の体験やグッズ購入、小さな子供向きの「木のおもちゃスペース」も完備されています。
永澤兄弟製陶所
永澤兄弟製陶所は、明治40年開窯の製陶所です。製陶所の向かいには、ショップ兼ギャラリーがあり、湯呑や花入、風鈴などに絵付け体験を行うことができます。当日の飛び入り(予約優先)や校外学習の受け入れも行っています。
昇陽窯
2024年春よりサービスが開始された、月に1度開催される1泊2日の宿泊プラン「陶泊」では、郷の風土や暮らしをじっくり体験することができます。陶泊では土の採取から丹波焼最古の登窯の見学、作陶体験などを行うことができます。
丹波伝統工芸公園 陶の郷
陶の郷は、自然豊かな丹波焼の郷「立杭」の中心にある丹波焼を見る・体験する・楽しむことができる総合施設です。ゆっくり買い物ができる「窯元横丁」や粘土細工や絵付けを体験できる「陶芸教室」、丹波立杭焼伝統産業会館では「古丹波」の名品や現代作家の最新作の展示が行われています。
最後に
兵庫県編、いかがでしたでしょうか?
兵庫県は、摂津・播磨・但馬・丹波・淡路の旧五国で構成されています。さらに北部は大量の雪が降る日本海側の気候、南部は温暖な瀬戸内の気候です。この多様性こそが兵庫県の特徴であり、各地で独自の文化が発展したことが分かりました。兵庫県にお住まいの方も、初めて兵庫県に訪れる方も、各地の違いを探しながら、感じながら過ごしてみてはいかがでしょうか。
淡路島と神戸市を結ぶ「明石海峡大橋」の中央支間長(塔と塔の距離)は1,991mで、これは世界一の長さなんだって!
参考サイト/文献
- 伝統工芸 青山スクエア|https://kougeihin.jp/
- 株式会社ダイイチ|http://daiichi-j.com/
- あいたい兵庫|https://www.hyogo-tourism.jp/castle/gokoku.html
- HYOGO|https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk08/documents/hyougoisan2022keiryou.pdf
- 兵庫県|https://web.pref.hyogo.lg.jp/
- 津田沼陶芸教室|https://www.ne.jp/asahi/yasuhiko/hayashi/tsudanuma/tougei-question/rokuro-kaiten.htm
- 但馬情報特急|https://www.tajima.or.jp/
- Creema|https://www.creema.co.jp/
- 三木市|https://www.city.miki.lg.jp/
- 兵庫県 おの観光ナビ|https://ono-navi.jp/
- 丹波伝統工芸公園 陶の郷|https://tanbayaki.com/
- 陶泊|https://tamba-tohaku.com/
- 国土交通省|https://www.mlit.go.jp/index.html
- 47都道府県・伝統工芸百科(丸善出版)
- 都道府県別 伝統工芸大辞典(あかね書房)