「あなたは地元の伝統的工芸品をいくつ知っていますか?」
生まれ育った地元とはいえ、全ての伝統的工芸品を把握している方は多くないのではないでしょうか。そもそも伝統的工芸品と聞いてピンとこない方も少なくないでしょう。
「ん?伝統”的”工芸品って呼ぶの?伝統工芸品じゃなくて?」
みなさんの心の声が聞こえてきました…
安心してください。このあと、違いを説明していきますね。
この記事では全国各地に存在する、全243品目(※2024年10月17日時点)の伝統的工芸品を都道府県ごとに紹介する連載シリーズです。いきなり全243品目に目を通すのは大変だと思うので、まずは自分の地元の伝統的工芸品を知るところから始めてみるのはどうでしょう。
記念すべき初回は北海道編!それでは早速見ていきましょう!
経済産業省が指定する伝統的工芸品とは
地元の伝統的工芸品を知る前に、「伝統的工芸品とは何か」というところから説明していきます。
まず、「伝統工芸品」とは長年受け継がれている技術や技法を用いて作られた工芸品のことをいいます。その数は各都道府県で指定されているものだけでも1,300品目を超えています。指定に統一のルールはなく、各自治体が独自のルールを設けて指定しています。
一方「伝統”的”工芸品」とは昭和49年に制定された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」に基づき、経済産業大臣の指定を受けた工芸品を指します。
指定を受けるには次の5つの項目全てを満たす必要があります。
一 主として日常生活の用に供されるものであること。
経済産業省|伝統的工芸品 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/nichiyo-densan/index.html
二 その製造過程の主要部分が手工業的であること。
三 伝統的な技術又は技法により製造されるものであること。
四 伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるものであること。
五 一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているものであること。
指定を希望する場合は、事業協同組合等が都道府県知事等を経由して経済産業大臣に申し出を行います。
北海道の土地特性
北海道は日本列島の北端に位置し、面積は83,424㎢(2020年1月1日現在)で全国で最も広く、国土の約22.1%を占めています。中央部の大雪山や日高山脈を境に、釧路・網走などの道東、稚内などの道北、札幌・室蘭などの道中、渡島半島を中心とした道南の4つの地域からなり、全体の約50%を山林が占めています。もともとはアイヌの人たちが住んでいましたが、明治時代に開拓民も移り住むようになりました。
経済産業省が指定する北海道の伝統的工芸品
近年のアイヌ文化への関心の高まりから、2013年に「二風谷アットゥㇱ」と「二風谷イタ」の2品目が北海道の工芸品としては初となる経済産業省指定の伝統的工芸品となりました。二風谷が位置する沙流川流域は「アイヌの伝統と近代開拓による沙流川流域の文化的景観」として2007年に「重要文化的景観」として指定されています。
二風谷イタ(にぶたにいた)
イタとは木製のお盆のことです。
製材した木を3〜4年程度寝かせた後に、モレウノカ(渦巻の形)、アイウㇱノカ(刺のある形)、シㇰノカ(目の形)、ラㇺラㇺノカ(ウロコ文様)などに代表されるアイヌ文様を彫刻していきます。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/0601/
1 木地に対する彫刻は、次の技術又は技法によること。
(1)モレウノカ、アイウシノカ、シクノカなどのアイヌ文様を彫り込む「文様彫り」をすること。
(2)文様と文様の間のスペースをラムラムノカ(ウロコの形)で埋める「ウロコ彫り」をすること。
■原材料
木地は、クルミ若しくはカツラ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。
分類
木工品・竹工品
指定年月日
2013年3月8日
二風谷アットゥㇱ(にぶたにあっとぅし)
アットゥㇱとは樹皮の繊維で織られた布のことです。
幹に切れ目を入れて樹皮を剥ぐ→外側の皮を剥ぐ→内皮を取り出す→窯で煮て柔らかくする→川で洗ってぬめりを取る→乾かして薄く剥がす→細く裂いて撚りをかける。このような工程を経て糸を作っていきます。糸づくりが9割、織るのが1割と言われるほど手間のかかる作業なんです。水に強く、通気性にも優れていて天然繊維としては他に類を見ないほどの強靭さを持ちながら、長く使うことで馴染んでくるのもアットゥㇱの特徴です。
主な産地
告示
■技術・技法
伝統工芸 青山スクエア https://kougeihin.jp/craft/0101/
1 糸は、次の技術又は技法によること。
(1)「糸裂き」によること。
(2)「機結び」によること。
(3)「糸撚り」によること
2 機織りは、次の技術又は技法によること。
(1)「受け糸取り」によること。
(2)後帯機を使う「機織り」によること。
■原材料
主原料は、オヒョウ若しくはシナノキとすること。
分類
織物
指定年月日
2013年3月8日
一度は行きたい関連施設
北海道には二つの伝統的工芸品があるのが分かりました。どちらもアイヌ文化を色濃く継承しています。実際に「二風谷アットゥㇱ」や「二風谷イタ」が気になった方、地元は近いけどよく知らなかった方は、これをきっかけに是非関連施設に足を運んでみてはいかがでしょうか?
平取町へ。アイヌ文化へ。のサイトでは、「アイヌ文化の旅」プラン例が掲載されているので参考になるはずです!
ここではプラン例に掲載されている施設を中心に5つをご紹介します。
平取町立二風谷アイヌ文化博物館
北海道の歴史と文化の源泉でもあるアイヌ文化という宝物を守り、そして未来へと伝えていくことをコンセプトとして、平成4年に開館した博物館です。
二風谷コタン
二風谷コタンはアイヌ文化を学び、体感することができる空間です。コタンのなかには平取町立二風谷アイヌ文化博物館や沙流川歴史館、平取町アイヌ文化情報センターなどの施設のほか、多くのチセ(家)が復元されています。
沙流川歴史館
平取町立二風谷アイヌ文化博物館に隣接する「沙流川歴史館」では、チャシ跡の調査の様子や、平取町内の遺跡で発掘された遺物の展示、今昔のジオラマなど、沙流川と人の物語を学ぶことができます。
萱野茂 二風谷アイヌ資料館
アイヌ初の国会議員となった萱野茂氏が館長として、40年にわたって収集したアイヌ民具をはじめ、世界の先住民族の民具や絵画など計千点以上が展示されています。
平取町アイヌ工芸伝承館ウレㇱパ
ウレㇱパは、アイヌ工芸の伝承を進める場として開設されました。第一線で活躍する工芸家の技術を見ることができたり、アイヌ文様入りオリジナルタンブラーやマグボトルといった様々な体験プログラムを提供しています。
最後に
北海道編、いかがでしたでしょうか?
北海道出身の方や現在お住まいの方でも、中々知らない情報もあったのではないでしょうか。
アイヌ文化と聞くと、北海道の中でも都心から遠く離れているイメージを抱きがちですが、実際は札幌から車でアクセスできたり、新千歳空港から電車で移動できる距離にあるんです。
施設では制作体験ができたり、近場にはびらとり温泉ゆからなどの温泉宿もあります。なかなか、博物館・歴史館・体験工房・工芸品購入・温泉宿がこの距離感で立地していることは珍しいです。
ふらっと2時間プラン、都会の喧騒を忘れる一泊二日プランなどなど、楽しみ方もさまざま!
ぜひ週末に足を運んでみてはいかがでしょう!
アイヌの文化に触れて、自然あふれる平取町に行ってみたいな〜。
参考サイト/文献
伝統工芸 青山スクエア|https://kougeihin.jp/
【公式】平取町立二風谷アイヌ文化博物館|https://nibutani-ainu-museum.com/
平取町へ。アイヌ文化へ。|https://www.biratori-ainu-culture.com/
北海道暮らしの読みもの|https://hokkaidodo.jp/area-division/area-division02/
平取町アイヌ工芸伝承館 ウレシパ|https://biratori-urespa.jp/
平取町|https://www.town.biratori.hokkaido.jp/index.html
47都道府県・伝統工芸百科(丸善出版)
都道府県別 伝統工芸大辞典(あかね書房)