日本の伝統的工芸品「和紙」を深掘り!紙の歴史と和紙の発展を学ぼう

この記事では、経済産業省指定の伝統的工芸品の中から【和紙】にスポットライトを当てて、和紙のこれまでの歩みを見ていきます。
記録を残す、気持ちを伝えるなど、今も昔も変わらないコミュニケーション方法の一つとして「紙」はどのように発展してきたのか。ぜひ最後まで読んで、意外と知らなかった「紙」の魅力を再発見してもらえると嬉しいです!

土佐和紙 井上手漉き工房(記事作成協力)
高知県の仁淀川流域は、古くからすぐれた和紙の産地として知られ、この土地で作られる土佐和紙は、岐阜県の美濃和紙、福井県の越前和紙とならび、日本三大和紙の一つに数えられています。世界一薄いと言われる土佐典具帖紙(とさてんぐじょうし)は文化財の修復や、世界のアーティストに重宝されるなど、国内外で高い評価を受けています。
今回記事作成に協力をしてくれたのは、土佐の地で明治から4代続く「土佐和紙 井上手漉き工房」さん。メディアへの露出や出張イベント、工房体験など、手漉き和紙の魅力を積極的に発信しています。

出張体験 in 神戸 写真提供:土佐和紙 井上手漉き工房
出張体験 in 大阪 写真提供:土佐和紙 井上手漉き工房
工房での体験の様子① 写真提供:土佐和紙 井上手漉き工房
工房での体験の様子② 写真提供:土佐和紙 井上手漉き工房
井上 みどりさん

日本の伝統工芸品は子供たちにとっては未知で未来。日本人が大切にしてきた「自然の恵みから生まれるものづくり」をたくさんの子供達に体感してもらいたいです。
私たち工房では和紙体験の出張イベントも県内外で開催しており、一人でも多くの子供たちが和紙にふれられる場を、積極的に提供しています。

この記事の目次

和紙って何?

和紙とは「日本に古くからある、植物の繊維を原料とした紙」を指します。一般的な原材料として多年生植物のコウゾ、ミツマタ、ガンピの3種類が使われます。植物の繊維は水になじむ性質があるので、これらの繊維に水を吸わせて繊維同士をくっつけ、薄く平らにして乾燥させると和紙が出来上がるのです。

原料の違いによって出来上がる和紙も異なります。

1.コウゾ紙

強くて丈夫な紙に仕上がります。

カエルくん

障子(しょうじ)や襖(ふすま)などの材料としても使われるよ!

2.ミツマタ紙

薄く丈夫で光沢のある紙に仕上がります。

紙幣や金箔や銀箔を挟む「箔合紙(はくあいし)」の材料としても使われるよ!

3.ガンピ紙

薄くて滑らかな紙に仕上がります。

カエルくん

写経や手紙などに用いられてきたよ!

和紙は傘や提灯、うちわなど他の伝統的工芸品にも広く使われており、日本の文化を語る上で欠かせない存在です。さて、そんな和紙はどうやって誕生したのか。和紙と言うからには紙は日本で誕生したの?それとも海外から伝わってきたの?そんな疑問が浮かんでいるのではないでしょうか。

次の章では「紙」の誕生について詳しく見ていきましょう!

和紙の歴史を知ろう

紙や紙漉き(かみすき)の技術が日本に伝わった時期には諸説ありますが、610年に高句麗(こうくり)の僧である曇徴(どんちょう)により日本に伝わったと言われています。「紙」自体が誕生したのは紀元前2世紀ごろの中国。その頃の紙はアサが原料に使われており、次第に木の皮やアサの繊維、アサ布などが原料に用いられました。紙は中国から朝鮮半島を経て、日本に伝わってきたのです。

日本に古くからある紙がわざわざ「和紙」と呼ばれるようになった理由は、1870年頃に西洋から伝わった「洋紙」と区別するためです。和紙と呼ばれる前は「日本紙」と呼ばれていたそうです。

さて、紙が生まれる前はどのようにして記録を残したり、情報の交換を行っていたのでしょうか。

粘土板

British Museum – British Museum|https://www.britishmuseum.org/collection/image/152339001

約6000年前のメソポタミアでは、人類で最も古い文字の記録の1つである楔形文字(くさびがたもじ)が刻まれた粘土板が発見されています。

パピルス

約5000年前のエジプトでは、ナイル川に生えているパピルスという草を、薄く伸ばして紙のように使っていました。peaper(ペーパー)の語源と言われています。

羊皮紙(ようひし)

約2500年前、羊や山羊(やぎ)の皮を薄く伸ばして紙のように使っていました。丈夫で書きやすいですが、高価なことからヨーロッパ全土で重宝されていました。

このように「記録の媒体」は粘土板→パピルス→羊皮紙→紙のように、時代とともに移り変わってきました。

カエルくん

粘土板以前には、約2万年前にクロマニョン人によって描かれた「ラスコーの洞窟壁画」のように、岩に絵を描いて記録を残す方法もあったのだとか…

和紙の作り方を知ろう①(原材料・道具

さて、これまで「和紙」の歴史を見て来たので、この章では具体的に「和紙」はどのように作られるのか、3種類の原料の特徴や、製造過程について詳しく見ていきましょう。
冒頭で紹介した通り、一般的に和紙の原材料にはコウゾ、ミツマタ、ガンピの3種類が使われます。

1.コウゾ(楮)

クワ科の落葉低木で、栽培がしやすく日本中で収穫できます。繊維は6mm〜21mmと太く長いのが特徴で、和紙の原料として一番多く使われています。

カエルくん

低木とは、一般的に樹高が0.5m〜2.0m の樹木のことだよ!

2.ミツマタ(三椏)

ジンチョウゲ科の植物で、枝の先が3本に枝分かれすることから、ミツマタと呼ばれています。繊維は3mm〜5mmと細く短いのが特徴です。

3.ガンピ(雁皮)

出典:I, KENPEI|https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2946138

ジンチョウゲ科の落葉低木です。栽培が難しく、山に生えているものを収穫します。繊維は3mm〜5mmと平たく短いのが特徴です。

和紙を作るにはこれら3種類の原材料だけでは十分ではありません。補助材料として「ネリ」と呼ばれる粘り気のある液を混ぜることで、紙を漉く時に繊維がむらなく分離され、綺麗な和紙が出来上がります。「ネリ」はトロロアオイという植物の根から作られます。

4.トロロアオイ(黄蜀葵)

あおい科の一年生植物です。和紙作りのほか、蒲鉾(かまぼこ)や蕎麦のつなぎ、などに利用されます。

次に和紙を作るために必要な道具を見ていきましょう!

1.簀桁(すけた)

簀桁は簀(す)と呼ばれる網のような部分と、桁(けた)と呼ばれる簀を囲う枠のようなもので、二つを合わせて使います。簀桁を用いて紙を漉くことで、水だけが下に抜け落ち、繊維だけが簀桁に溜まります。

カエルくん

上下左右に揺らしながら波を起こすんだ。職人さんの腕が光るところだよ!

2.漉き舟(すきふね)

原材料と水とネリを入れる長方形の水槽のことです。

カエルくん

原材料と水とネリを混ぜ合わせたものを紙料液と言うんだ!

3.ビーター

原料を細かくほぐす時に使用します。ビーターには、ホーレンダー・ビーターとナギナタ・ビーターの2種類があり、ホーレンダー・ビーターは主にミツマタやガンピなど繊維の細かい原料の時に使用します。ナギナタ・ビーターは主にコウゾのような繊維の長い原料の時に使用します。

カエルくん

繊維を「切る」のではなく「ほぐす」のがポイント!

和紙を作るための原材料と道具がわかったところで、次にどんな手順で和紙が作られているのかを見ていきましょう!

和紙の作り方を知ろう②(製造工程)

1.原材料を準備する

コウゾ、ミツマタ、ガンピやトロロアオイを収穫します。

2.蒸し

蒸し器などを使って、原材料を蒸します。

3.皮剥ぎ(かわはぎ)

蒸した原材料を冷めないうちに作業場へと運び、皮を剥ぎます。

カエルくん

「植物の外皮を使う」ということが和紙の大きな特徴なんだ!

和紙:植物の外皮を使う(人の手によりシンプルな工程で、柔らかくしなやかな紙ができる)
洋紙:植物の幹(木材チップ)の部分をつかう(機械的な工程で、固くて均一な紙ができる)

4.煮熟(しゃじゅく)

高温で煮ることで繊維を柔らかくしていきます。この時に大量の水が必要になるので、水が綺麗で流域面積の大きな川の近くで和紙作りが発展していきました。

5.ちりとり

混ざっているゴミを丁寧にひとつひとつ取り除いていきます。

6.ほぐす

たたき棒で叩いたり、ビーターを使ってさらに繊維をほぐしていきます。

7.「ネリ」を作る

「ネリ」は温度によって粘り気が違うので、慎重に管理します。

8.紙料液を作る

ほぐした繊維と「ネリ」を混ぜ合わせて紙料液を作り、漉き舟に入れます。

9.紙を漉く

簀桁を使い、紙を漉いていきます。

10.乾燥させる

プレス機で余分な水を抜き、乾燥させます。

現代の和紙の活躍を知ろう

記録を残す、情報を他者に伝える役目以外にも、和紙は時代とともにパワーアップしています。この章では現代の「和紙」の活躍を見ていきましょう!

インクジェット紙

和紙といえば墨との相性がいい反面、インクとの相性が悪いのでは…そう感じる方もいるかと思いますが、実際はそんなこともありません。近年ではコート剤を塗ることで和紙の暖かさを残しつつも、写真や絵を印刷できる和紙ジェット印刷紙などもあり、家庭用のプリンターでも和紙を使うことができます。

ユネスコ無形文化遺産

本美濃紙

超近代化が進む現代において、手で紙を作る、さらにはその品質の高さから、ユネスコから、2009年に石州半紙(せきしゅうばんし:島根県)、2014年には本美濃紙(ほんみのし、岐阜県)と細川紙(ほそかわし、埼玉県)の全3品目を合わせてユネスコ無形文化遺産として認定されています。

アート×和紙

美濃和紙あかりアート展

岐阜県美濃市で開催されている「美濃和紙あかりアート展」や、世界的に著名なアーティストたちに和紙が用いられるなど、和紙独特の暖かさや光の優しさから、近年ではアート方面にも活躍の場を広げています。

カエルくん

光の色味がかっこいいなー!

いかがでしたか?
身近な存在であるからこそ、なかなか「紙」の歴史や製造過程に目を向ける機会は少ないかと思います。現在、北は長野県(内山紙)から南は高知県(土佐和紙)まで日本各地で全9品目の和紙が経済産業省指定の伝統的工芸品として指定されています。(※2024年10月時点)
和紙は、製造過程に綺麗な水が大量に必要なことから、大きな河川の近くが産地になっていることが特徴です。全国の9箇所の産地のうち、半数以上の5箇所が中国・四国地方にまとまっていることにも納得です。和紙をはじめ、伝統的工芸品は日本の気候風土を生かしたものづくりであることを感じることができますね。

最後までご覧いただきありがとうございました。この記事が「和紙」に目を向けるきっかけになれば嬉しいです!そして、和紙に興味を持った方はぜひ産地に行って職人さんとお話ししながら商品を選んでみてください。製作体験を開催している工房などもあるので、「紙漉き体験」などもおすすめです!

経済産業省指定の伝統的工芸品一覧【和紙】(※2024年10月時点)

  • 内山紙(うちやまがみ)|長野県
  • 越中和紙 (えっちゅうわし)|富山県
  • 美濃和紙 (みのわし)|岐阜県
  • 越前和紙 (えちぜんわし)|福井県
  • 因州和紙 (いんしゅうわし)|鳥取県
  • 石州和紙 (せきしゅうわし)|島根県
  • 阿波和紙 (あわわし)|徳島県
  • 大洲和紙 (おおずわし)|愛媛県
  • 土佐和紙(とさわし)|高知県
参考文献
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