日本の伝統的工芸品「漆器」を深掘り!漆と塗りものの関係性を学ぼう

この記事では、経済産業省指定の伝統的工芸品の中から【漆器】にスポットライトを当てて、塗りもののこれまでの歩みを見ていきます。日本の国土面積に占める森林の割合(森林率)は約67%で、国土の約3分の2が森林で覆われており、古くから漆器の原材料となる木材やウルシの木が豊富でした。また、日本には四季があり、湿度が高いと乾きやすい(固まりやすい)漆の特性から、「漆器」は日本の気候風土を活かした工芸品とも言えるでしょう。

伝統的工芸品は日本の気候風土や暮らしに根付いたものです。豊かな森林資源を活かし、日本独特の美意識である「侘び寂び(わびさび)」を反映した「漆器」の魅力を一緒に深堀りしていきましょう!

この記事の目次

漆器って何?

漆器とは主に天然木の器などに漆を塗り重ねた工芸品を指します。「漆」はウルシの木から採取される樹液のことです。日本では縄文時代から漆が使われていましたが、平安時代以降に技術が発展し、中世(鎌倉時代〜室町時代)に装飾技法(蒔絵や螺鈿など)が完成されました。その後シルクロードを経てヨーロッパに日本の漆文化が輸出されると、漆器は「JAPAN」と呼ばれるほど広く知られる存在になりました。

カエルくん

ヨーロッパでは、漆器は「JAPAN」、磁器は「CHINA」と呼ばれていたんだ!

天然木以外をボディにした漆器
乾漆(かんしつ)(正式には脱乾漆)
型に麻布を漆で固めてボディとして制作する漆器です。奈良の興福寺の阿修羅像などのボディも乾漆です。
陶胎漆器(とうたいしっき)
陶器のボディに漆器で加飾した漆器です。 陶器だけでなく、磁器に漆を焼き付けることもします。
縄胎漆器(じょうたいしっき)
タコひもを型に巻き付けてボディにする漆器です。
紙胎漆器(したいしっき)
和紙に漆を染み込ませてボディにする漆器です。

経済産業省が指定する伝統的工芸品のうち【漆器】は23品目です。(※2024年10月17日時点)漆は湿度が高い方が乾きやすい(固まりやすい)特性があるため、降水量の多い地域、降雪地域の多い、東北地方(6/23品目)や北陸地方(6/23品目)で発展してきました。

カエルくん

東北6県、北陸3県で【漆器】の指定品目数の半数を超えるんだ!

漆を詳しく知ろう

漆器は、「漆」と呼ばれるウルシの木から採れる樹液で塗り重ねることが分かりました。この章ではどうやって樹液を集めるのか、そして集めた樹液をどのように「塗れる状態」にするのかを見ていきましょう!

まずは、樹液の集め方から!

樹液の集め方

山入り(6月初旬)

ウルシの木の周りの草刈りを行ったり、足場を組んだり、実際の樹液採取に取り掛かる前の段取りのことです。

目立て(6月中旬)

樹液のでやすい位置を見極めながら、ウルシの木に最初の掻きキズ(辺)をつけます。

カエルくん

「目立て」はキズをつけるだけ!樹液はまだ取らないんだ!

上げ山(6月下旬)

目立てから1週間後に2本目(2辺目)の掻きキズをつけます。この時、最初のキズから上に向かって逆三角形になるようにキズをつけていきます。

カエルくん

「目立て」から1週間あけることで、キズを治そうとして樹液がたくさん出るんだよ!

初辺(7月上旬〜中旬)

3本目(辺目)〜7本目(辺目)の掻きキズをつけていきます。1日ではなく、数日おきに1日1本ずつキズをつけていきます。

カエルくん

掻きキズをつけたら、出てきた樹液をヘラで掻き取って「タカッポ」の中に集めるよ!

タカッポ

盛辺(7月下旬〜8月)

8本目(辺目)〜13本目(辺目)の掻きキズをつけていきます。この時期が樹液の量、質ともにピークをむかえます。

末辺(9月)

14本目(辺目)〜の掻きキズをつけていきます。

裏目掻き(10月)

キズをつけて、最後の一滴まで採取します。

カエルくん

一本の木から1年間に採れる樹液の量はわずか200g!

伐採(11月)

樹液を出し終えたウルシの木は役目を終えて、切り倒されます。翌年の春には新芽が伸びてきて、十数年後には再び樹液を取ることができるようになります。

実は国産漆はとても少ない?
国産漆の採取量は約750㎏です。国内の漆使用量は、約30t。中国からの輸入が97%に及びます。江戸時代も大きな建物や船が作られるときは必ず大量の漆が輸入されました。現在の漆器のほとんどが中国産の漆で制作されていますが、日本の漆と中国の漆のDNAは全く同じです。原産がどちらの国かは明らかになっていませんが、日本では縄文時代の早期の遺跡から漆が発見されています。

塗りものの原材料がわかったところで、次に漆の種類を見ていきましょう!

漆の種類

生漆(きうるし)

生漆

タカッポに集めた樹液からゴミなどを取り除き、木樽に保存しておきます。下地作りやふきうるしに使います。空気に触れると短時間で黒っぽくなります。

カエルくん

生漆は水分が多すぎて、そのままだと「塗り」には使えないんだ。

すき漆(すきうるし)

すき漆

生漆をかき混ぜたり、熱を加えたりしながら、水分を飛ばして滑らかにしていきます。色と香りが変化するのを確認しながら、塗料として使える状態にしていきます。

カエルくん

この工程を「クロメ」と呼ぶんだ!

クロメで精製されたすき漆を不織布を使って丁寧にこすことで、「塗り」に使うことができます。

色漆(いろうるし)

色漆

すき漆に顔料を混ぜて、黒・赤などの色に変えていきます。

カエルくん

顔料とは着色料のことだよ!

黒漆(くろうるし)

黒漆

生漆に鉄粉を混ぜて、漆の成分と鉄イオンの化学反応によって黒色に変化させます。

塗りものの種類を知ろう

さて、漆の原材料である樹液の集め方、集めた樹液を塗れる状態にする方法、そして漆の種類がわかったところで、次に漆の塗り方による違いについて見ていきましょう。

塗りものの種類には大きく分けて3つの種類に分けられます。

下地作りをしない塗りもの

ふき漆・すり漆

木地に生漆をぬり、すぐに和紙で拭きとる作業を繰り返し、木目を活かして仕上げます。

木地呂ぬり

ケヤキなどの木目の美しさが透けて見える塗りの技法です。

飛騨春慶
カエルくん

器に木目が見えるのが特徴だよ!

下地の上に塗り重ねる塗りもの

塗り立て・花塗り

仕上げの上塗りの表面を研ぎ出さず、油分を含ませた漆を塗っただけのもの。

ろいろ塗り

上塗りした表面を研ぎ上げ、最後に透けた漆を施して磨いてツヤを出す。

川連漆器
カエルくん

木目は見えず、滑らかさを感じるね!

模様をつける塗りもの

変わり塗り

漆の様々な性質を利用して、色を変化させたり、表面に凹凸をつけたりしたもの。

若狭塗 写真提供:福井県観光協会
カエルくん

新潟漆器は塗りの技法のバリエーションの豊富さから「変わり塗りの宝庫」と呼ばれてるんだ!

漆器の作り方を知ろう

さて、この章では漆器がどのような段階を経て作られるのかを見ていきます。

一般的な材料である木地を使った漆器の作り方は大きく3つの段階に分けられます。土台となる木地を作る「木地師(きじし)」、下地を作り漆を塗る「塗師(ぬし)」、器に模様などをつける「蒔絵師(まきえし)」など、それぞれ専門の職人さんが担当することが多いです。

漆器の製造過程

木地作り

原料の木材を加工して形をつくります。

木固め

木地の表面にある小さな凸凹を埋めていきます。

下塗り

いよいよ漆を塗っていきます。漆は湿度が高い場所で固まりやすいので、温度や湿度を調整した「うるし風呂(室)」に入れて乾かしていきます。湿度70〜80%、温度25℃前後に調整されています。

うるし風呂(うるし室)
カエルくん

京都・輪島・福井などでは「うるし風呂」、香川などでは「うるし室(むろ)」というんだ!

水研ぎ

下塗りが固まったら、砥石(といし)と耐水ペーパーで水研ぎしていきます。

カエルくん

塗って乾かして研磨して、塗って乾かして研磨して…この作業を何度も繰り返していくんだ!

上塗り

外側の仕上げの部分を塗っていきます。チリやホコリが付かないように、締め切った上塗り専用の部屋で作業を行うことが多いです。

加飾

蒔絵(まきえ)
漆で模様や絵を描き、漆が乾かないうちにその上から金や銀、錫(すず)の粉をまいて、漆の粘着力で定着させます。

うるし絵
漆に顔料を混ぜた色漆で模様や絵を描きます。

沈金(ちんきん)
漆を塗った後に刃物などの道具で模様を彫ります。彫った部分に生漆を刷り込んで、金箔や金粉を押し込んで金色の装飾を施します。

彫漆(ちょうしつ)
色漆を何層にも塗り重ねて、刃物で模様を彫っていきます。塗り重ねた色漆が模様となって現れます。

螺鈿(らでん)
アワビ貝などの内側が光る貝を細かく切り抜いて、漆を使って貼り付けて模様を描きます。

蒟醤(きんま)
漆を塗った面を彫り、別の漆で埋めで装飾とする技法です。発祥はミャンマーで中国を経由して日本に伝えられました。

存清(ぞんせい)
漆絵を強調するために、絵の周辺や中に線を彫る技法で、彫った跡に金箔や金粉を入れたりすることもあります。

自分好みの漆器を見つけよう

いかがでしたか?「漆器」は産地の木材、産地ごとに特徴のある塗り方、加飾方法などにより、様々な種類に分けられます。また、同じ地域によっても、気候風土や土地の歴史によって、発展した漆器が違ったりするので、「この地域でこの漆器が発展したのはなぜかな?」と、産地の背景を考えてみるのも塗りものの楽しみ方の一つです。

例えば、石川県には「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と称される3つの漆器産地があります。なぜ、各地で違う特徴を持った漆器(山中漆器、輪島塗、金沢漆器)が発展していったのか…興味を持った方はぜひ調べてみてください!

最後までご覧いただきありがとうございました。
この記事が「漆器」に目を向けるきっかけになれば嬉しいです!そして、塗りものに興味を持った方はぜひ生活の中に伝統的工芸品の漆器を取り入れてみてください。塗りものは親から子へ、子から孫へ、世代を超えて使い続けることができます。値段は高いものが多いですが、「長く使い続ける」ことを考えれば、きっとあなたにぴったりの塗りものを見つけることができるでしょう。

経済産業省指定の伝統的工芸品一覧【漆器】(※2024年10月時点)

  • 津軽塗(つがるぬり)|青森県
  • 秀衡塗(ひでひらぬり)|岩手県
  • 浄法寺塗(じょうぼうじぬり)|岩手県
  • 鳴子漆器 (なるこしっき)|宮城県
  • 川連漆器(かわつらしっき)|秋田県
  • 会津塗(あいづぬり)|福島県
  • 鎌倉彫(かまくらぼり)|神奈川県
  • 小田原漆器(おだわらしっき)|神奈川県
  • 村上木彫堆朱(むらかみきぼりついしゅ)|新潟県
  • 新潟漆器(にいがたしっき)|新潟県
  • 木曽漆器(きそしっき)|長野県
  • 高岡漆器(たかおかしっき)|富山県
  • 輪島塗(わじまぬり)|石川県
  • 山中漆器(やまなかしっき)|石川県
  • 金沢漆器(かなざわしっき)|石川県
  • 飛騨春慶(ひだしゅんけい)|岐阜県
  • 越前漆器(えちぜんしっき)|福井県
  • 若狭塗(わかさぬり)|福井県
  • 京漆器(きょうしっき)|京都府
  • 紀州漆器(きしゅうしっき)|和歌山県
  • 大内塗(おおうちぬり)|山口県
  • 香川漆器(かがわしっき)|香川県
  • 琉球漆器(りゅうきゅうしっき)|沖縄県
参考サイト/文献
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