みなさんは、「伝統的工芸品」という言葉を聞いたことがありますか?代表的なものに、京都府で作られる絹織物である「西陣織」や、岩手県で作られる金工品「南部鉄器」などがあります。このほかにもたくさんの品目が「伝統的工芸品」として指定されており、その数は全部で243品目。(令和6年10月17日現在)みなさんも一度は聞いたことがあるでしょう。一方で、実際に購入したことがある人や普段から使っている人は、そこまで多くないのではないでしょうか。
職人が一つひとつ手仕事で作り上げる「伝統的工芸品」とは一体どんな世界なのか、一緒に見ていきましょう。
伝統的工芸品とは
「伝統的工芸品」とは次の5つの要件を全て満たし、伝統的工芸品産業の振興に関する法律(昭和49年法律第57号、以下「伝産法」という。)に基づく経済産業大臣の指定を受けた工芸品のことをいいます。
要件を満たすかどうかの現存物・文献の収集や整理、申出書の作成などにより、申出を行うまでに通常2年以上を要する、非常に長く大変な道のりです。
主として日常生活の用に供されるもの。
箸のように毎日使うものの他に、冠婚葬祭や節句など、一生あるいは年に数回の行事でも、生活に密着し一般家庭で使われる場合は「日常生活」に含まれます。
その製造過程の主要部分が手工業的。
持ち味が損なわれないように補助工程に機械を導入することは可能ですが、本質的な部分は手で作られていることが条件です。
伝統的な技術又は技法により製造されるもの。
「伝統的」とは、およそ100年以上の継続を意味します。
伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるもの。
およそ100年以上使用されてきた材料を使います。ただ、既に枯渇したものや入手が極めて困難な材料もあり、その場合は、持ち味を変えない範囲で同種の原材料に転換することは、伝統的であるとされます。
一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているもの。
一定の地域で、ある程度の規模の製造者があり、地域産業として成立していることが必要です。ある程度の規模とは、10企業以上または30人以上が想定されています。
伝統工芸とは、長年受け継がれてきた工芸品の事を指します。これらは全て「伝統工芸品」と呼ばれ、全国にはおよそ1300品目もの伝統工芸品が存在しています。
そんな「伝統工芸品」の中から、5つの要件を満たし経済産業大臣から指定されたものが「伝統的工芸品」です。
伝統的工芸品の分野(2024年10月時点)
「伝統的工芸品」には243品目もの種類があることが分かりました。ここでは241品目をもう少し細かく分けて「分野」毎に見ていきましょう。
織物(38品目)
染めた糸を織る「先染め」の方法で作られた布を「織物」と呼びます。
日本では長らく麻素材の繊維を利用してきましたが、2000年ほど前、中国からの渡来人によって養蚕や絹織物の技術が伝えられたと言われています。
代表的な品目 西陣織、結城紬、久留米絣、など
染色品(14品目)
織った生地を染める「後染め」の方法で作られた布を「染色品」と呼びます。7世紀ごろ、仏教の伝来とともに中国や朝鮮から染色の技術が伝えられました。
紅花、日本茜、蓼藍などの植物から抽出した色素を、媒染材を用いて定着させ、型紙と防染糊を使い布地に模様をつけながら染める方法、筆や刷毛などで布地に直接絵柄を描く方法などがあります。
代表的な品目 加賀友禅、京友禅、東京染小紋、など
糸や生地を染める順番で「織物」か「染色品」に分けられるんだね。
その他の繊維製品(5品目)
織物・染色品には含まれない、行田足袋(ぎょうだたび)、加賀繍(かがぬい)、伊賀くみひも、京繍、京くみひも、の5品目が該当します。
陶磁器(33品目)
焼物のうち、粘土を原料にした「陶器」と、陶石を粉砕した粉を原料にした「磁器」の2つの総称です。
5世紀頃、朝鮮からの伝来で、ろくろや窯を使った焼き物が作られるようになりました。磁器が焼かれるようになったのは江戸時代に入ってからです。
代表的な品目 波佐見焼、九谷焼、備前焼、など
スターバックスが地域限定コラボしてるから、聞いたことあるな。
出典:https://www.starbucks.co.jp/jimoto/
漆器(23品目)
漆の木から採れる樹液を、加工した木の素地に塗って作る器や道具のことをいいます。
漆塗りの歴史は古く、縄文時代の出土品から漆を施した装飾品などが見つかっています。蒔絵や螺鈿による模様が描かれたものは、とくにヨーロッパの人々を魅了し、15世紀以降は西洋の調度品にあつらえた工芸品の貿易も盛んに行われました。
代表的な品目 会津塗、大内塗、輪島塗、など
漆には抗ウイルス・抗菌パワーがあるんだって。
出典:https://www.popuri-no-mori.com/SHOP/g17350/list.html
木工品・竹工品(33品目)
杉、欅、桐、竹などを加工して作られる家具、道具、器などの工芸品です。木工の伝統的な技術には、釘を使わず板同士を組み合わせて作る「指物(さしもの)」、ろくろに固定した木材を回転させ刃物で削りながら形作る「挽物(ひきもの)」、木材を刃でくり抜く「刳物(くりもの)、薄くした木材を円形に曲げて繋ぎ合わせる「曲物(まげもの)」などがある。竹工には、弾性のある性質を生かし、割いた竹を編み込む技術が数多くあります。
代表的な品目 箱根寄木細工、秋田杉桶樽、江戸指物、など
箱根寄木細工の代表作「秘密箱」は仕掛けを解かないと箱が開かないようになっていて、昔は金庫の役割もあったんだって。
出典:https://www.popuri-no-mori.com/SHOP/g17350/list.html
箪笥は大阪で最初に生まれたと言われてるんだよ。
パンフレット「大阪泉州桐箪笥」より
金工品(16品目)
金、銀、鉄、銅、錫などの金属を加工してできる工芸品です。主に、叩いて加工する「鍛金」、溶かした金属を型に流して固める「鋳金」、鏨(たがね)で彫刻する「彫金」の3つの技法が用いられます。
中国や朝鮮の大陸から伝わった技法をもとに、弥生時代から銅剣や馬具などが作られていましたが、仏教の隆盛とともに寺院の建造や仏像、仏具などの製作が盛んになり、金工の技術も発達。その後、茶道具や日本刀、鎧などの武具、装飾品など、さまざまな製品が作られるようになりました。
代表的な品目 南部鉄器、堺打刃物、山形鋳物、など
刃物は実用性のあるお土産として外国人観光客にとても人気なんだって。
仏壇・仏具(17品目)
仏壇とは、江戸時代初期から庶民の家にも置かれるようになった信仰のための道具のことです。仏壇は伝統技術が集結した工芸品でもあり、一人の職人の手によって作り出されるものではありません。ひとつの仏壇が完成するまで10数工程に分かれていて、熟練した技術を持った何人もの職人の手によって作り出されます。
江戸時代には幕府が各家に仏壇を持つことを強要したため、庶民にまで進行が定着し家庭でも仏具を使用するようになりました。特に仏壇づくりは各藩が奨励したため、美術工芸品とまで言われるほど精緻で美しいものが作られるようになりました。
代表的な品目 彦根仏壇、京仏具、三河仏壇、など
和紙(9品目)
和紙は、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などの植物の繊維を原料とした日本古来から作られている紙です。
代表的な品目 土佐和紙、石州和紙、越中和紙、など
2009年に「石州和紙」、2014年に「細川和紙」「本美濃和紙」を加えた3つの和紙でユネスコ無形文化遺産に登録されているんだよ。
文具(10品目)
筆、墨、硯、そろばん等の起源はすべて中国から。日本では、筆は8世紀頃から、墨は9世紀頃から、硯は11世紀頃から作られています。また、そろばんが日本へ伝わったのは、1570年代頃とされています。江戸時代に「和算」という日本独自の数学が発展し、それに伴い、現代に受け継がれる日本式のそろばんが作られるようになりました。
代表的な品目 雄勝硯、播州そろばん、川尻筆、など
播州そろばんを作っている会社には「小野市のエジソン」と呼ばれる、そろばんを使わない人に向けて、そろばんを作ってる面白い人がいるよ。
出典:https://sun-tv.co.jp/suntvnews/news/2022/11/08/60102/
石工品(4品目)
石工品とは、自然石を建造物や生活用品に加工したものです。
代表的な品目 真壁石燈籠、岡崎石工品、京石工芸品、など
「国会議事堂」は37種類の石材を全国から集め、使用する石材全てを国内産のものとしました。そのことから「日本の石材博物館」と呼ばれることもあるんだよ。
出典:https://sun-tv.co.jp/suntvnews/news/2022/11/08/60102/
貴石細工(2品目)
宝石や貴石を彫刻や切断した素材に細かく埋め込んだ工芸品です。
代表的な品目 甲州水晶貴石細工、若狭めのう細工
人形・こけし(10品目)
鑑賞用や遊び道具であるとともに、無病息災や子供の健やかな成長、五穀豊穣などへの思いが込められたものです。衣装を身に着けた人形や、木材を人型に加工し、頭部や胴体に絵柄を描いたこけしなどがあります。
古くは、土を固めて焼いた土偶や埴輪などが作られていました。やがて宮中行事などに用いられる藁や紙の人型人形へ、そして貴族の女の子が「ひいな遊び」をする紙の人形へと変遷し、江戸時代には、桃の節句を祝う雛人形や、当時の人気歌舞伎役者を模したのがきっかけと言われる市松人形(日本人形)など、衣装を身につけた人形が作られるようになり、庶民へと普及していきました。
代表的な品目 宮城伝統こけし、江戸木目込人形、岩槻人形、など
その他の工芸品(26品目)
ヨーロッパの芸術家たちに多大な影響を与えた日本独自の多色刷り木版画「江戸木版画」、数種類の鳥の羽と漆、金箔で作り上げる「播州毛鉤」、農作業の日よけ・雨よけ、行事などに使われる縫い笠「越中福岡の菅笠」のほか、魅力あふれる工芸品が該当します。
代表的な品目 江戸切子、甲州印伝、京扇子、など
山梨県ではニホンジカによる森林・農業被害対策として、管理捕獲されたニホンジカから採れる皮を、甲州印伝の原料皮として利用する取り組みを行っているよ。
出典:https://www.pref.yamanashi.jp/documents/94098/report_h28_31.pdf
工芸材料・工芸用具(3品目)
金沢箔(かなざわはく)、伊勢形紙(いせかたがみ)、庄川挽物木地(しょうがわひきものきじ)の3品目が該当します。
金箔を使用したジェルネイルなんてものをあるんだって。
出典:https://www.kinpaku.co.jp/hakuiro/
伝統的工芸品の生みの親 伝統工芸士とは
伝統工芸士は、12年以上の経験による高度の技術を持ち、厳しい試験に合格した、産地の作り手をけん引する存在です。
産地の振興の中心として全国でおよそ3,600人の伝統工芸士が活躍しており、その割合は産地の作り手の約7%という狭き門なのです。
伝統工芸士の女性の割合は増加しており、伝統工芸品産業では女性の活躍が期待されているよ。
出典:https://shizen-hatch.net/2022/03/15/traditional-craft/
伝統的工芸品のシンボルマーク 伝統マーク/伝統証紙とは
伝産協会では一般消費者の「伝統的工芸品」についての適切な理解と情報提供を図ることを目的に、伝統マークのデザイン、伝統証紙を貼付する事業を推進しています。伝統マークのデザインは、デザイナー故亀倉雄策氏によるもので、伝統の「伝」の文字と「日の丸」を組み合わせたもので、伝産協会が商標登録を行い、シンボルマークとして使用しています。
伝統証紙は、国が指定した技術・技法、原材料、製造地域に該当する工芸品について、各産地の協同組合等が適切な検査基準に基づいて検査を行い、合格した伝統的工芸品にのみ貼られる証紙で、「伝統を誇る手づくりの証」といえます。
伝統証紙には、工芸品名と組合名が必ず明示されており、また大証紙と中証紙には、すべて連番になる管理番号を入れ、仮に事故が発生した場合には、生産者まで遡ってその責任を追求できるようになっています。
伝統マーク/伝統証紙
金色の伝統証紙は、100年以上の歴史があり、先程紹介した5つの条件を満たした伝統的工芸品に貼られます。経済産業大臣が指定した技術・技法・原材料で制作され、産地検査に合格した製品が対象となっています。
銀色の伝統証紙は、「現代の伝統工芸品」が対象とされています。伝統的工芸品の技術・技法を残しつつ、新しい技術や素材を取り入れて作られた工芸品のことを指します。伝統的工芸品産業振興協会と産地組合の間で条件を決め、クリアしたものだけに銀色の伝統証紙が貼られます。
職人と呼ばれる、それぞれの仕事のプロが一つひとつ丁寧に作り上げた「伝統的工芸品」は、手作業ならではの温かみがあったり、機械では表現することが難しい芸術性あふれる作品ばかり。みなさんも、「伝統的工芸品」に興味を持ったら、その作り方や歴史、その地域で発展した背景などを調べてみるとおもしろいかもしれません。
KAERUでは、伝統工芸品の奥深い魅力をみなさんと一緒に楽しめるような、情報の発信を目指しています。
参考資料
工芸百貨「匠市」>伝統的工芸品とは|https://takumi-no-ichi.jp/
一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会>伝統的工芸品について|https://kyokai.kougeihin.jp/
Takumi Japan>KATEGORY|https://jp.jtakumi.com/
中川政七商店の読み物>工芸百科事典>石工の工芸品|https://story.nakagawa-masashichi.jp/
工芸ジャパン>伝統的工芸品とは|https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/
『47都道府県・伝統工芸百科』関根由子、佐々木千雅子、指田京子 丸善出版 2021
『伝統的工芸品の本』一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会 同友館 2003